11「心眼」

「誰だ。」


あやとは言うと。


「そちらこそ、誰だ?ここは、俺の親友の家だぞ。」


その言葉で、黒香から訊いた父の親友だと認識した。

黒香の父が経営している会社を引き継いで社長になった人。


あやとは、警戒をした。


「ああ、黒香から訊いています。」

「黒香?」

「ええ、黒香から訊いていますよ。とても、お父様を慕っていたと。」

「君は、誰なんだ?」


どうやら、親友はとても機嫌が悪いみたいだ。

社長というだけあり、身なりはきちんとしているが、顔つきがとても怖い印象だ。

前髪をオールバックにしていて、目つきがとても細かった。

そんな細い目で、睨まれているのである。


「申し遅れました。私は、黒香の婚約者、黒谷あやとです。」

「婚約者ぁ?」

「はい。」


あやとをジロジロと見始めた。

上から下に、下から上にと、見定める。


今のあやとは、服装はコートを着ていたからわからないが、中はパジャマであった。

だから、内心、ハラハラしている。


「その黒香はどうした?」

「黒香は、俺の家にいます。」


すると、一緒にきていたクロがその様子を見て、クローバーに届く声でにゃーと鳴いた。

その声を訊いたクローバーは、黒香に伝えると、黒香はお屋敷へと出向いた。

そして、辿り着いた時に見た光景は、親友があやとに殴りかかる所であった。


「ちょっと、何をしているの?頬一さん。」

「黒香。」


頬一と呼ばれた人が、あやとから離れ、黒香に近づく。


「黒香、どうして、こんな奴と。」

「頬一さん、落ち着いてください。」

「落ち着けるか。」


頬一は、黒香を抱きしめた。

黒香は、一瞬、動きが止まったが、頬一を突き放す。

何故か、怖かったからだ。

そして、あやとの傍に行く。


「あやとさん、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。」


あやとに肩を貸して、立ち上がらせる。

その様子を見ていた頬一が、怖い顔をさらに怖くした。


「黒香。お前。」

「ええ、私は、黒谷あやとさんが婚約者です。」

「そんな。黒香、よく考えろ。私は父の会社を引き継いだのだ。それに、小さい頃から一緒にいたではないか。そんな普通のやつより、私を選べばいいのだぞ。」


すると、黒香は首を横に動かし。


「いいえ、頬一さんは、私など好きではありませんでしょ?」

「そんなこと。」

「私、人を見る目はありますよ。」


そう、あやとと黒香の目には、見えている。

頬一の頭に、大きな象の耳が。






桐生頬一きりゅうほほいちは、黒香を自分の物にしようとしていた。

親友が事故にあったと訊いた時、会社を乗っ取り、黒香を物にして、この屋敷を自分のにしようとしていた。

そんな企みがあった。


どうして、そういう気になったのか。

頬一は、借金があった。

とても大きな金額だ。


黒香に取り入るには、仲の良い親友を使った。

だから、演技とはいえ、黒香の父が亡くなった時に大きく泣いた。

だが、それが大きく、今、響いている。



その当時の黒香なら、頬一を信用出来たが、今では出来ない。


つい、この間から気づいた事だが、耳の大きさは、企みの大きさと比例していた。

頬一の耳は象の耳。

すごく大きい企みがあった。


クローバーを黒神から貰ったのは、その両親が亡くなった日。

それを考えると、黒神は……いえ、最高神は気づいていたのだろう。


頬一に騙されるな。


それが言いたかったのかもしれない。

黒香にカラスを授け、人の企みを見える目にした。

だが、それだけでは安心は出来なく、黒香の近くに住む黒を背負った人を探すと、黒谷あやとと猫のクロが丁度良かった。


黒香の協力者として、あやとを目的にした。


黒香の父が運営していた会社は、世界中に渡りある教育関係の補助をしている会社であった。

中心として、小学生の年齢である子供達の為に、教育に必要な教科書、ノート、筆記用具、黒板、チョーク、ドリル、絵具、彫刻刀、縄跳びなどの道具を提供していた。


それらの資金を集める為に、有名な人と仲良くなり、援助して貰っていた。

通帳に入っていたお金も、子供達の教育に当てていた。


だけど、黒香の父は、副社長として親友を傍に置いておいたが、親友の借金を知っていたのか、このままにしておけないと思った。

それを知ることが出来るのが、フロッピーの内容である。


フロッピーの中身は、三つのファイルがあった。


一つは、親友の借金一覧

どうして、借金を背負う事になったのかと、その金額が書かれたエクセルファイル。

二つは、次期社長の氏名

桐生頬一ではなく、秘書をしていた緑川直輝みどりかわなおきを指名していた。

三つは、黒香への手紙

黒香へは、桐生頬一に気を付けろと書いてあった。


その遺言があったからこそ、あやとは頬一を見た時に警戒をした。




「さあ、黒香。私の所にこい。」


頬一が言うと、あやとはクロを、黒香はクローバーを見た。


「黒香さん、この企みは。」

「ええ、一回だけでは浄化出来ない。それほどまでの大きな企み。」

「だけど、クロとクローバーの息がぴったりじゃないと。」

「そうね。同時ではないと、意味がないわ。」


クロとクローバーは、あやとと黒香の会話を訊いていて。


「にゃー。」

「カー。」


同時に鳴いた。

同時だった事が、あやとと黒香が安心要素にかわった。


「「いけ!!」」


あやとと黒香は、クロとクローバーに命令した。

クロは足を狙い、クローバーは肩を狙い、頬一に攻撃した。

頬一は、クロとクローバーを払うが、それに負けずにあやとと黒香は、声をかける。

ついに、クロとクローバーは同時に、頬一の身体に傷をつけることが出来た。


瞬間、頬一の頭にあった象の耳が順番に消えていくのが分かった。


全部消える時、頬一は一度、膝を折り曲げて、地に落ちる。

顔を下にしていて、表情が見えない。


「頬一さん?」


黒香が名前を呼ぶと、意識を戻したのか、顔を上に向ける。

その顔は、とてもすがすがしかった。


「なぜ、ここに?」

「頬一さん。」

「黒香さん、私は一体。」

「貴方は、私を心配してきてくれたのですよ。」


その一言で、そうだったと思い、立ち上がった。

頬一は、ふと、あやとを見る。


「ああ、君は誰だ?」


先程の出来事を記憶していない頬一を見ると、企みがとても大きかったのを感じた。


「私は、黒香さんの婚約者、黒谷あやとです。」

「婚約者?君は、ロリコンなのか?」

「違います。」


やはり、成人が未成年を好きなのは、ロリコンなのか。

クロを見ると、少しにやけているのを感じた。


あやとと黒香は、説明をすると、頬一は納得した。

会社経営は上手くいっていなく、赤字が続いていた。

秘書の緑川がフォローをしていたが、それでも大変であった。


フロッピーの内容を印刷してあったあやとは、その紙を見せると。


「そうだな。私は社長の器ではない。」


黒香は、頬一の顔を見て。


「会社は辞めないでくださいね。」

「黒香さん。」

「きっと、父だったら、そういうと思います。」

「そうだな。」


二言、三言話しをして、頬一は去って行った。

頬一を見送ると、あやとは座り込んだ。


「はー、疲れた。」

「あやとさん、大丈夫でしたか?」

「大丈夫です。緊張したよ。だって、この下、パジャマだからさ。」


黒香は、コートの下から現れたパジャマを見て、噴き出して笑った。





それからは、とても忙しかった。

掃除をしていると、色々な書類が出て来た。

会社の書類もあり、社長が変わった緑川に黒香が届ける。

その際には、あやとも一緒にいて、黒香の婚約者だというと、緑川からスカウトされた。


調べていくと、今、本業としての仕事は、黒香の父が経営していた会社の一部だった。

会社は変わらなくてもいいが、仕事内容は変わり、色々な会議に必要な書類の作成になった。

会議資料作りは、とても神経を使うし、大変だったが、家で出来たから引き受けた。


今までの上司は、仕事内容が変わるから、少しだけ寂しがっていた。

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