10「紹介」
あやとは家に来て、両親に黒香を紹介する。
両親は、とても驚いていた。
「あやと、相手はいないって……。」
「あの後、出来たんだ。」
黒香の評価は、とてもよかった。
玄関での靴の揃え方、お茶を出した時の言葉遣い、姿勢に容姿など。
しかし、問題なのは、未成年だ。
そこの所は、あやとは考えていて、黒香の家を説明した。
父は少し考え。
「あやと、黒香さん、時々、この家と黒香さんの家を行き来してみたらどうだろう?」
「へ?」
「黒香さんがこの家から、あやとが黒香さんの家から、出たり、入ったりする。私達が一緒にいれば、未成年としても周りからの視線もやわらかくなるだろう。」
「世間的に認められろって事か。」
「そうだ。そこから始めないと、大変になると思う。それに、あやとの説明だと、黒香さんのご両親とつながりがある人物が、大物だとすると、こんな住宅地に住んでいるただ普通の男性が耐えきれない。だから、それに慣れる為にも、黒香さんの家に住んで、それの大きさを知ると良い。」
「確かにそうだ。」
あやとは、ただ単に引っ越せばいいとか思っていたが、心構えが足りなかった。
父の言葉を訊くと、改めて黒香を見る。
黒香は、躾がなっていて、今でも、姿勢よく椅子に座っている。
最初、見た時は、頼りない感じだったが、それは黒神の仕事だったからであり、普段はあの家に合う位、しっかりとしていると思う。
それに、今通っている学校は、県立流石高校。
「しっかりとしないといけないのは、俺か。」
その一言を呟くと。
「わかったよ。父さん。お世話かけると思うけど、よろしくお願いします。」
一礼をすると、黒香も同じく一礼をした。
そこからは、黒香があやとの家に来て、母と一緒に料理作ったり、一緒に出掛けたり、黒香の家……いや、自分の家、お屋敷としよう。
お屋敷を掃除しつつ、過ごした。
黒香が学校に行っている間、お屋敷に来て、掃除をしている。
玄関を入ると、赤いジュータンが敷かれて、長い廊下がある。
一応、突き当りの部屋は見える。
その前には、右側には四部屋あり、左側には三部屋あった。
階段は、右側の部屋、玄関に一番近い扉を開けるとあり、二階に上がれる。
最初に開けた時には、階段が現れたから、驚いた。
二階に行くと、一階にある位、部屋があった。
二階の部屋は、個人の部屋だ。
黒香の部屋は、二階の階段を上がった目の前にある。
それ以外は、トイレ、脱衣場、風呂場、収納庫、それと黒香の両親が過ごした部屋だ。
まず、あやとがやった事は、水回りの掃除であった。
二階は、黒香が使っていたのか、比較的きれいだったが、それでも行き届いていなく、埃が沢山出て来たし、水垢があった。
それらが済むと、足りない物がありメモする。
両親の部屋を空っぽにしてもいいと、黒香から許可があり、その作業をする。
両親の部屋にある物は、大体は同じ物だ。
クローゼット、ベッド、机、いす、パソコン、チェストなどがあった。
だが、全てに少し装飾されて、高級感があった。
父の部屋だろうか。
母の部屋にはないのが、金庫であった。
金庫は、最近開けたと思われる形跡があった。
黒香から、自分の説明された時に、書類の書き方とか整理の仕方などを書いた紙を金庫から出したと訊いていたから、黒香が開けたのだろう。
中身を確認すると、そこには家の権利書や歴史が書いた書類が出て来た。
他にも、印鑑や通帳なども出て来た。
この様子だと、手を付けていないと思われる。
これらも処理が必要だと思い、通帳を開くと、そこには見たことがない金額が記載されていた。
改めて、屋敷を見回すと、自分が置かれている立場を認識する。
「とても大変な家に、自分は来たな。」
その一言だった。
だが、もう、時を止める事も戻す事も出来ない。
進まなければならない。
「あやと、机の裏に落ちていたにゃ。」
クロも一緒に来ていて、手伝ってくれていた。
「これは、フロッピー。」
「フロッピーっていうと、パソコンで作成した資料を保存できるものだったにゃ。」
「そうだな。しかし、結構古いな。読み込めるかな?」
「今は、薄くて、沢山保存できるにゃ。」
「そうだね。帰ったら、見て見よう。」
フロッピーを服のポケットに入れて、クロの頭をなでて、褒めると、掃除を再度し始めた。
夕方になり、黒香が帰ってきた。
「お帰り、黒香さん。」
「ただいま、あやとさん。」
きれいになった二階を見ると、とても感謝をした。
「とてもきれいです。ありがとうございます。」
「いいえ。この家、いずれ、俺が管理していくから当然だよ。それと、これ、アルバムが見つかったよ。」
黒香は、アルバムをあやとから受け取ると。
「こんなに!」
「こんなにです。中を少し見せてもらいましたが、とても大切にされていたと思いました。」
「ええ、とても大切にされたわ。」
一般的な電子レンジが入る程の大きさになっている段ボール、二箱になるほど、アルバムがあった。
「今度、最初から見て、説明してください。」
「わかりました。アルバムといえば、あやとさんのアルバム、見せてもらいましたよ。」
「え?」
「小さい頃は、とてもやんちゃだったのね。木にのぼったり、バンジージャンプしたり、アスレチックで遊んでいる姿を見ましたわ。」
「あー、そうね。」
思い出すと、とても身体を動かすのが好きだった。
今は、身体よりも頭を使うのが好きだ。
「黒香さん。今日、母が夕ご飯作って待ってくれているから、家で食べてください。」
「いいのですか?」
「そういう遠慮はしないでください。もう、黒香さんは家族なのだから。」
「そうね。」
黒香は、出会った頃よりも笑顔が多くなっていたと思う。
色々な表情をしてくれるから、とても面白いし、好きだ。
「さて、出たゴミは明日、ゴミステーションに持っていくとして、今日はここまで。」
あやとは、自分の身なりを見て、埃を払った後、手や顔を洗い、髪をセットして、黒香に手を出す。
「では、帰りましょう。」
「はい。」
黒香は、もう一つの家へと帰る為、同じく身なりをきちんとして、あやとの手を取り、玄関を出た。
クロもクローバーも一緒で、周りから見ると仲良い男女が猫とカラスを連れている光景になった。
目立つが、もう、二人が仲が良いのをこの地域の住人は知っていて、温かい目で見守っている。
黒神の仕事もあり、外では、お互いにすれ違う人間の頭を見て、耳がないかを確認していた。
ときたま見つかり、お互いに協力することもある。
「しかし、黒神の仕事はお金がすごいな。」
「そうね。すごいわ。しばらくは、仕事しなくてもよさそう。」
「でも、仕事はしないとね。黒香さんは、卒業したら、どうするのですか?」
「一応、近くの大学にいくの。経済学部。」
「近くの大学というと……真面目大学。」
「そう。」
訊くと、真面目大学は、黒香の両親も通った場所であり、そこで出会った。
黒香の両親の話しを訊くと、とても興味があった。
「大学か。今からでも間に合うかな?」
「あやとさん?」
「俺、高卒なんだよね。でも、お屋敷で住むなら大学までの学歴必要かなって、今、思った。」
「大学、いかれるんですか?」
「少し考えて見て、行くなら、一緒の大学じゃなくても、同じく大学生出来るといいね。」
「面白そうですね。」
そんな話しをしながらも、周りを確認し、黒神の仕事をしていた。
家に着くと、父と母が出迎えてくれて、夕ご飯を食べ終わった後、片付けを黒香と母がやっている間に、持ってきたフロッピーの中身を確認する。
認識してくれるかが気になった。
こんな事もあろうかとと、フロッピーが入る機械を持っていた。
パソコンのUSBに接続し、フロッピーを入れると、中身を見れた。
「このファイルは。」
あやとは、ファイルを自分のパソコンに移動させた。
この情報は、黒香に見せられないと思った。
一応、証拠として、フロッピーの中身は残した。
あやとは、目を細めて、前かがみになり、両手をあごを支えて、考えていた。
『もしも、このファイルに書かれている事が真実なら、早く、あの家を俺の名義に変えないと、大変になる。』
家の名義を自分にするのは、黒香が高校を卒業してからにしようとしたが、このままだと家が無くなる。
あやとは、黒香を父と母に任せて、夜遅かったがお屋敷へと行く。
掃除していた時に、出て来た家の権利書を回収した。
『これを持って、法務局に必要な書類を揃えて持っていくだけでいい。』と思い、家を出ると、そこに、一人の男性が立っていた。
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