8「加速」

看板に、キツメブランドと書かれたビルの前に来た。

午前十時に待ち合わせだが、三十分早く来たあやととクロ。

だが、既に、黒香とカラスがいた。


「早いですね。」


あやとは、黒香を見つけていうと。


「ええ、少し緊張をしまして。」


眼鏡に三つ編みをしていて、黒いシンプルなワンピースを着ていた。

その姿を見て、あやとは口に手を当てて、ジッと見ていると、黒香は体をモジモジさせていた。


「あのー要件は?」

「え、ああ。」


あやとは、今の姿とこの渡そうとしているお土産の指輪が合うのかと見ていた。

カバンの中から、お土産を出して、黒香に渡す。

黒香は、何も疑わずに受け取る。


「これは?」

「両親と旅行に行ってきて、そのお土産。」

「え、ええ、私に?ありがとうございます。早速開けてみていいですか?」

「どうぞ。」


黒香は開けると、目を丸くした。


「これって。」

「勘違いはしてほしくない。ただ単にお土産だから。」

「そ、そうね。でも、なんか、その。」

「つけてみて。」


黒香は、あやとの言葉を素直に聞き入れてつける。

指は、右手の薬指だ。


「サイズがぴったりでよかった。」

「本当ですね。これ、カラスですね。」

「そういえば、カラスの名前、何にしたのですか?」

「えーと、笑わないでくださいね。クローバー。」

「クローバーか、かっこいいじゃないですか。」

「よかったです。」


クロは、カラスの名前を聞いて、話しをした。

カラス……クローバーもクロと話しが出来て、嬉しがっている。

お互いにニャーとカーだけの会話だが、動物同士なのか会話が成り立っている様に見えた。


「では、適当にお店に入って、話しをしましょう。」


あやとが言うと、黒香が案内をする。

案内された店は、ビルがある町から離れて、人通りが少ない場所にあった。

店は、外観はとてもよく、古い喫茶店という雰囲気がある。


店の中に入ると、店の人が来て、黒香を見ると奥にある個室に案内した。

カラスを連れて入れる所を見ると、動物可の店なのだと思った。

個室は、和室で靴を脱いで上がれる。


「ここは、私のお気に入りなの。」


黒香は、説明をして、靴を脱いで上がる。

あやとも同じくして、座布団の上に正座して座ると。


「何がいいですか?」


メニューをあやとの前に出した。

メニューを受け取り、見ると、とても種類が多い飲み物があった。

ソフトドリンクにアルコール、温かいお茶も種類が多い。


食べ物を見ると、種類が少なかった。

サンドイッチ、おにぎり、ラーメンの三種類しかなかった。


あやとは、おにぎりと温かいほうじ茶にした。

黒香は、いつも通りと言わんばかりにメニューを見ずに決めていて、リンゴジュースにサンドイッチだ。

クロとクローバーは、水をもらっている。


注文をして、品が届く間に話しをする。


「あれから、仕事出来ている?」


あやとは聞くと。


「ええ、名前を付けた瞬間に、何故か、出来る様になって。あやとさんのアドバイスのおかげです。」

「それはよかった。黒香さん自身は元気ですか?」

「ええ。」


黒香は緊張しているのか、着けた指輪を優しく触っていた。

とても優しくていねいにしているから、つい。


「黒香さんさえよければ、この先、一緒になりませんか?」


つい、言ってしまっていた。

あやとは、口に両手を持ってきて塞いだが遅く、黒香の顔を見ると、だんだんと赤くなっていくのが見えた。


黒香は、目を見開いたが、持っているカバンの中を探り、一枚のカードを机に置いた。

カードを見ると、あやとはおどろいた。


「え?ええ?黒香さん、まさか。」

「はい。私は、未成年です。」


カードは、生徒手帳替わりの生徒カードであり、県立流石高校、一年生となっていた。

県立流石高校といったら、この地域で一番ハイレベルの高校である。

以前は、この地域に住んでいる子供に合わせて、人数を毎年調整していたが、評判を聞いて、この地域に引っ越して、県立流石高校に入学する子供が増えた。

だから、定員もれになり、今では、入学するのがとても大変な高校となっていた。


そんな県立流石高校に入れるレベルってことは、とても優秀なのである。

ちなみに、あやとは県立尊徳高校出身だ。


「あー、なら、俺、手を出してはいけませんね。」

「でも、お互いの親が許可出していればいいのではなかったですか?」

「そう……そうだね。でも、一度、聞いておきたい。」


あやとは、黒香にカードを返しつつ。


「俺の事は、どう思っている?」

「……、私としては、その、今、付き合っている人いませんし、こんな体系で恰好でよければ、よろしくお願いします。」

「それは、好意は持ってくれているって意味でいいのか?」

「はい。」


あやとはほほ笑んだ。

その微笑を見ると、黒香もほほ笑んだ。

お互いにその顔が、とても好きになっていた。


黒神の言葉に誘導されたが、こうして、初めて恋人が出来た。


料理が来て食べながら、色々とお互いを知ってもらうと、とても心が澄んでいく。

黒香も同じで、あやとと話しをしていると、とても楽しかった。


お互いの親に紹介する日は早いと良いと結論を出して、黒香の両親には来週の日曜日、あやとの両親には、その後の日曜日に紹介するとなった。


その時には、出会いはお互いのクロとクローバーを散歩させている時に、仲が良くなり、飼い主同士で話しをしていたら、盛り上がったにした。




「では、来週の日曜日、また、あのビルの前で。」

「はい。時間は午前十時で。」


店を出て別れると、あやとにクロは話しかけた。


「よかったにゃ?」

「これでよかったと思う。両親にも、安心してもらえる。」

「そうにゃけど。」

「クロもクローバーと一緒に遊べるぞ。」

「それもそうにゃ。けど、あやとがまさか、ロリコンだったとはにゃ。」

「まて、それは違う。」


そんな会話をしながら、家へと帰って行った。

家へ帰る間にも、頭に耳がある人物が二人ほどいて、黒神の仕事をした。




「ただいま戻りました。」


黒香は、家へと戻ると、誰もいなかった。

それはそうだろう。

黒香は、天涯孤独であった。

両親はいなく、親戚も知らない。

この家は、両親から受け継いだもので、立派な建物であった。

お屋敷と言っていい程だが、両親が一年前に事故で亡くなってからは、一人で守っていた。


黒神からの依頼であるお金も入ってくるし、両親が生命保険や維持管理の方法など、亡くなった後に黒香が困らないようにする為、色々と記載したノートがあり、その通りにしている。


一年に一回の書類とか、必要な書類の書き方などもコピーされ、記載されていたから、とても助かっていた。

県立流石高校に入学出来たのも、小さい頃からの教育で、生きていくにはどんな書類が必要で、ルールや立ち振る舞いなどを教わっていたし、勉強も常にトップでいる成績を残せていた。


中学三年は、両親が他界したが、受験勉強で悲しみを上書きし、忙しくしていたから、今になっては寂しいという感覚は無かった。

それに、学校にいけば友達もいるし、先生もいるし、家に帰ればクローバーがいる。

一人になったが、一人ではない。


黒神がクローバーを連れて来た日は、丁度、両親が亡くなった日であった。


「両親にあいさつ……か。」


黒香は、家に入ると、少しだけ気を重たくした。


家は、両開きの扉を開けると、靴を脱ぐスペースがあった。

右側には、天井から床までの靴箱がある。

脱ぐスペースには、靴が散乱していた。

人が来る予定が無かったから、玄関だけではなく、部屋も片付けてはいない。

自分が生活出来る場所だけ、綺麗にしていた。

それを見て、黒香は。


「掃除しないと。」


すると、クローバーが。


「手伝うカー。」

「ありがとう、クローバー。」


早速、玄関から掃除し始めた。

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