7「旅行」

十二月一日になり、旅行の日になった。


ペット可のホテルを探したら、旅館があり、とても設備は良かった。

猫だと聞くと、専用の部屋にしてくれた。


部屋を見ると、天井まであるキャットタワーが一つあり、天井の付近にある柱には、キャットウォークがあった。

壁は、全て、爪とぎ出来る様に、段ボールで壁を覆っていた。

床は、ジュータンで汚れたら取り換えられる式であった。


猫のトイレも、人間のトイレと一緒の所にあり、トイレに流せる砂を使っていて、処理出来る様にスコップが備え付けられている。

ご飯と水もいれる容器も準備してあり、こぼれにくくする為、重かった。


人間はベッドがあり、横に三つ並んでいた。


「結構いい部屋ね。」


母が言うと、父も喜んでいた。

クロを見ると、とても目がキラキラしていた。

早速、クロを離すと、キャットタワーに上って、キャットウォークを堪能していた。

すごく、楽しそうにしている。


「お風呂も見てきたけど、一応、猫を洗えるスペースなのか、洗い場が広くて、猫用のシャンプーもあったわ。それと、猫用のタオルも。」

「本当だ。でも、クロは洗わなくていいよ。そんなに汚れてないから。」

「そうね。でも……。」


母は、クロに声をかける。


「クロ、もし、体洗って欲しくなったら、お風呂場まで来るんだよ。」

「にゃー。」


母の言葉が分かったのか、返事をした。


この頃、クロは父や母が話しかけると、返事をするから、とても、嬉しがって、クロに話しかける。

クロも、話しかけられるのが好きで、会話を楽しんでいる。


「少しホテルの中探検してくるよ。」


父が言うと、あやとは。


「母さんも行って来たら?クロは、俺が見ておくから。」

「いいのかい?」

「うん。面白そうなものがあったら、教えて。後で見に行くから。」

「わかったわ。」


父と母がホテル探検に出かけた。

ホテルの扉は、オートロックで、鍵がないと入れない。

今のホテルは、人数分鍵を用意してくれているから、とても楽だ。


「クロ。」


あやとは、クロを呼んだ。

クロは、キャットウォークから、キャットタワーを伝って降りて、あやとの傍に行く。


「何にゃ。」

「ここに来る途中に、頭に耳がある人物がいた。」

「そうだにゃ。」

「行くか?」

「行くにゃ。」


ホテルにあるメモ用紙に、クロと一緒に出掛けてくると書いて、クロを肩に乗せて現場まで行く。

現場は、ホテル裏にある駐車場を仕切っている人だ。

まだいるか見ると、いた。


丁度、車はなく、ボーと立っていた。

だが、頭に鹿の耳があり、何かを企んでいるのは分かった。

この駐車場に車を停める時にすれ違い、見てしまったから、仕方ない。


「監視カメラもないから、行ける。」

「一応、そういう所、確認するんだにゃ?」

「当たり前だ。猫が人をかんだなんてシーン、残しておくわけにはいかない。今までも、残したくなく、カメラがないのを確認して、クロに声をかけたんだからな。」

「そうだったのにゃ?」

「そうだったの。」


あやとは、クロに声をかけ、クロは仕切っている人の足首をかむ。

すると、頭の耳は消えて、ボーとしていた人は意識を解放した。

何があったのかという顔をしていた。


クロは、直ぐあやとの所に帰ってきていたから、かまれた事すら仕切っていた人は分からない。


「これでいいんだな。」

「これでいいにゃ。」


部屋に戻ると、まだ、両親は帰ってきていなかった。

メモを細かくちぎり、ゴミ箱へと捨てると、帰ってきた。

タイミングが良く、少し遅ければ、クロとどこに行っていたかと聞かれていた。

聞かれても、クロが出たがっていたから、少し散歩していた、というから良かったが、出来るだけ怪しい行動は見せたくなかった。


「ホテルの入口から右に行くと、庭があり、とってもきれいだったぞ。」

「それと、お土産売り場。すごく充実していたわ。」

「クロは見ておくから、あやと、行ってきなさい。」


両親の言葉で、ホテルの部屋を出て、一人で行動する。

あやとは、一人で行動するのは、久しぶりだと思った。


早速、父が勧めた庭に来た。

本当に見事な庭で、植物達が元気に優しく育っていた。

空気が澄んでいて、とても気持ちがいい。


深呼吸をすると、いきなり、この綺麗な空間が暗黒に包まれた。

目を開けると、目の前にはあの時の黒神がいた。

引っ越しする前にあったばかりであり、これで二度目になる。


「黒谷あやと君。」

「黒神様。」

「とても、仕事ぶりが優秀で、何よりです。最高神も喜んでいました。」

「それはそれは嬉しいです。でも、あの給料の渡し方と量はいただけません。」

「それは仕方ありません。最高神のやり方ですから。」

「変えられないと。」

「はい。」


黒神に言っては見たが、無駄だった。


「所で、今日は、どんな御用で?」

「ほめようかと。」

「え?は、ありがとうございます。」

「こちらこそ、神のわがままを聞いてくれて、ありがとう。」

「いつの時代も神はわがままです。でも、それ位が丁度いいと思いますよ。」

「そう言って下さると、助かります。……そういえば、カラスを連れた女性と会ったそうですね。」


あやとは、記憶をたどり「ああ……。」と思い出して、肯定すると。


「その女性とは、仲良くしてください。きっと、あやと君の助けになります。」

「そうですか。一応、連絡先は交換したので、話しは出来ます。」

「よろしいです。もしですが、その女性と恋愛とかしてみてはいかがですか?」

「え?」

「やっている事は同じですし、話しもしやすいと思います。」

「……もしかして、くっ付けようとしています?神様って、そこまで面倒をみるのですか?」

「可能性の話しとしてね。」


すると、あやとは女性を頭に浮かべた。

ドキドキはしないが、引っ掛かるものがあった。


「わかりました。神様の導きって事で、その線で意識してみます。」

「ありがとうございます。」

「で、給料の渡し方と量ですが……。」

「それは変えられません。」


少し話しをすると、黒神は帰って行った。

帰ると、周りの空気は、元へと戻り、とても神聖な庭となった。

太陽の光が差し込み、植物達が生き生きとしている。


「さっきまで、植物達が怖がっていたのにな。」


あやとは、スマートフォンを出すと。


「名前は、花都黒香か。黒香さんか。」


顔を思い出すと、確かに、綺麗ではあった。


あやとは、黒香にお土産でもと、母が勧めたお土産コーナーへと行った。

アレルギーがあるかもしれないと思い、食べ物系はなしにした。

キーホルダーが売っている場所へと来た。

だが、どれもピンと来なく、ふと横を見ると、アクセサリーがあった。

アクセサリーを見ていると、カラスの形をしたガラス玉がついた指輪があった。


「指輪は、ちょっとな。」


あやとは思ったが、意識するには必要なアイテムだ。

買っていた。

包む時に、紙の袋にしますか?箱にしますか?と聞かれたから、箱にしてもらった。

恋愛感情はないが、黒神の導きで、黒香が自分の運命ならばと従った。


部屋へと変えると、クロが盛大に段ボールに爪を研いでいた。

新しい爪とぎは、心地いいらしい。


「おかえりなさい。あやと。」

「さっき、ホテルの人が来て、ここで食事する事になったからな。」

「そうなんだ。夕ご飯、なんだろうね。」


そんな話をして、両親とクロと旅行を楽しんだ。


次の日


ホテルに着く前には、猫も同伴出来る博物館へと行ってきて、明日は、同じく猫同伴出来る防災施設へと行く。

防災施設は、ペットと一緒に被災した時を体験出来て、是非、一緒にいるペットを連れて体験してみてください、とホームページに書いてあり、それに参加をする為に予約を取っていた。


その施設に今いて、体験している。

ペットと一緒だと、どれ位まで一緒にいられるか。

どれ位食料が必要か。

どんな生活になるのか。

それらを、専門家と一緒に考えることが出来た。


クロもそれらを聞いて、自分がどうやって行動したら、迷惑にならないかを勉強した。


家に帰ると、三人とクロも含めて、玄関先で腰を下ろした。

疲れたのである。


「あー、いい旅行だった。」

「でも、疲れたわね。」

「本当、これからどうしようか?」


少し間があり。


「今日は、夕ご飯。お腹すいたら、各自でやるってことで。」


あやとが言うと、両親は賛成した。

それぞれに部屋に向かって、少し休む。


あやとは、布団に体を預けると、手を伸ばしてカバンの中を探る。

そこには、お土産で買った指輪があった。

包まれているから、それを見て、早速、黒香に連絡する。


「あ、花都黒香さんですか?」

『……あ、はい。そうです。えーと、黒谷さんですね?』

「そうです。黒谷あやとです。」


あやとは、黒香の声を聞くと、いきなり、胸が高鳴り始めた。

何とも思っていないのだが、スマートフォンから聞こえる女性の声というのは、どうしてここまでドキドキさせられるのか。


「えーとですね。近い内に会えませんか?」

『え?近い内って、明日とか?』

「近いですね。明日でもいいですよ。」

『……で、では、話しをしたあのビル付近で。』

「わかりました。午前十時でいいですか?」

『はい、大丈夫です。』

「丁度いいので、お昼ご飯も一緒にしましょう。」

『え、えええええ、お昼ご飯も?』

「嫌ですか?」

『嫌ではないのですが……わかりました。でも、お店は私に選ばせてください。』

「お願いします。」


などと話して、通話を切断した。

通話を切断すると、あやとは顔が赤くなっているのを感じた。

なんだろう。

なぜだろう。

胸が、どうして、ここまで反応するのか。


きっと、渡すものが指輪だからだ。

変に思われなければいいがと思い、再度、カバンの中にしまった。


「あやと、明日、あのカラスに会えるにゃ?」

「そうだよ。」

「どんな名前を付けられたのかにゃ、楽しみだにゃ。」

「そういえば、そうだね。それは楽しみだ。」


クロは、とても嬉しがっていた。

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