6「企み」
家に帰り、自分の部屋へと行き、布団に横たわると。
「企みって、なんだろうな。」
クロに話しかけた。
クロは、あやとの頭を舐めながら。
「そうだにゃ。今まで浄化した人の中にも、大切な企みを抱えている人がいたかもしれないにゃ。」
「そうだとすると、今の人みたいに、とても大切な企みを思い出せないままになるのか。」
「なんだか複雑にゃ。そういう人とそうでない人、見分けられないかにゃ。」
「企み……か。」
「どうしたにゃ?」
「いや、黒神にも企みがあって、俺に依頼してきたのかな?って思って。」
「にゃ?」
あやとは起き上がり、クロを膝に乗せる。
クロを撫でながら。
「だって、最初に黒神を見た時、黒い球体の上に動物の耳が見えたからさ。」
「そうにゃ?」
「確かあれは……、コウモリ。」
そんな話しをしながら、この休みを楽しんだ。
「ただいま。」
帰ってきた両親を、玄関まで出迎えたあやととクロ。
「おかえり、どうだったの?」
荷物を受け取り、台所に行き、置くと、お茶を出した。
お茶を出すと、椅子に座っていた両親は、ていねいに飲む。
父が、カバンから封筒を出して、封筒の中から紙を出した。
紙をあやとは受け取り見ると、安心した。
「お父さんもお母さんも、大丈夫そうでよかった。というか、健康そのものだね。」
「ええ、お医者さんも驚いていたくらいよ。」
「何も異常なかったからな。」
両親を見ると、お互いに微笑んでいて、とても幸せに見えた。
あやとは、そんな両親が好きで、いつまでも見ていたい。
「あやとは、何もなかったか?」
「この三日?何もなかったよ。クロと一緒に遊んでいたよ。」
「そのクロなんだけど、クロこそ、定期健診が必要だと思っていたんだ。もう、二十歳だろ?だから、動物病院、予約して来たぞ。」
「え?」
その時、クロが声を出した。
両親は、クロに視線を向ける。
あやとは、少し慌てたが。
「にゃー。」
クロが、もう一言鳴くと。
「気のせいか。クロが、「えっ」って言ったと思ったのだけど。」
「気のせいだよ。」
「そうね。人間の耳には、そう聞こえただけかもしれないわね。」
「で?予約がなんだって?」
話しを戻すあやと。
「小さい頃から行っていた動物病院に、予約を入れておいたんだ。健康診断受けた後、クロの話になってね。クロこそ、健康診断を受けさせないとって思って。」
「そうなのよ。二十歳だし、検査は必要よ。」
クロには必要ないって話すが、両親はクロを心配となり、色々と説得されて、検査に連れて行く事になってしまった。
部屋に戻ると。
「検査なんかしないにゃ。」
言われると思った。
「で……でも、クロ。両親がとても気にしているんだ。一回だけだから。」
「あやとは、どう思っているにゃ?」
「俺は、行かなくてもいいと思うけど……でも、クロ。ここで拒否をすると、後で、しつこく行くように言われるよ。」
「それは嫌だにゃ。」
「だったら、行こう。行って健康だって証明出来れば、これ以上は言われない。」
「わかったにゃ。一回だけだにゃ。」
ふと、黒神からの給料を見ると、確かに、これくらいの金額は貰っても良いと思い始めた。
未来は分からないが、今は、動物病院は保険がない。
全て、実費である。
あやとは、お金の準備をした。
クロの定期健診の日。
どうしてもというので、母もついてきた。
ゲージに入れられたクロに。
「大丈夫だからね。少し、見てもらうだけだからね。」
話しかけていた。
クロはというと、昨日「うっかり人間の言葉を話してしまわないか不安だにゃ。」と言っていたのを思い出した。
「クロ、大人しいね。前は、あばれたのに。」
「クロも理解しているんだよ。」
「そうね。そうだといいわ。」
とてもクロを大切に思っている表情をする母だから、クロも大人しくしている。
クロの番になり、母も一緒に付き添って、診察室に入る。
ゲージから出すと、早く検査してくれと言わんばかりに、直ぐに出て来て、診察台の上に座る。
獣医さんが、色々話しをしながら、体重、体温、身体を触って、検査をしていた。
レントゲンも一応撮って見る。
色々と検査をして、結果は、健康そのものとなった。
「でも、クロちゃんね。一応、食べ過ぎかもしれないから、少し、食事の量を減らしてね。」
その言葉が一番効いたのか、人間の言葉を話しそうになり、にゃーにゃーと抗議をしていた。
あやとは、食事の後、部屋で追加分やるかと思った。
「クロも健康で良かったわね。あやと。」
「そうだね。俺も、健康診断、会社で受けているけど、健康だから大丈夫だよ。」
「会社で受けれるっていいわね。」
「父さんの会社でも受けれていたと思うけど、調べて見たら、詳しくではなかったから、心配だった。」
「そうなのよね。でも、これで家は、健康体ってわかったから、どう?一度、クロも含めて旅行とか行きましょう。」
「旅行か。そうだね。」
俺とクロは共鳴をしている。
あやとに何かあれば、クロも同じになる。
逆もある。
もしも、あやとが交通事故に合い、命を落とせば、クロも同じく命を落とす。
そうなれば、残された両親は、一緒に暮らしてきた家族、二人を亡くす。
悲しい思いをさせてしまう。
それを思うと、元気な内に一緒に旅行、生活、会話をしておけば、後悔しないと思った。
「なら早速、父さんの休暇を訊いて、計画を立てないと。」
「そうね。クロが気に入るペット可のホテルも見つけないとね。」
クロは、あやとと母の話す内容を訊いて「あやとが一緒ならいいか。」と思っていた。
父が帰って来て、休暇の日を訊くと、冬に長期の休暇が取れたと言っていた。
十二月一日から十二月十日の十日間である。
父の仕事内容は、工場で働いており、その日はメンテナンスで工場の電源を落とすから、その間、休暇である。
工場といっても、物を作る仕事ではなく、パソコンで受注管理や従業員の仕事管理だ。
だから、午前九時から午後五時までの仕事である。
前に、父に単身赴任の仕事が来たのは、その土地の工場で寿退社をした人物がいて、その人がやっていた仕事が、父がやっていた仕事だったからだ。
だが、父は断り、違う人に任され、その人は喜んで異動していった。
「今日が、十月二十日だから、調べる余裕はあるね。」
「そうね。あやとが調べてくれるの?」
「やっておくよ。クロが気軽に泊まれる所じゃないとね。」
旅行の日取りが決まった。
後は、何処に行って、何処に泊まるか。
ペット可のホテルと、ペットも同伴出来る施設を探す為、部屋に戻るあやと。
部屋に戻ると、早速パソコンの前に来た。
パソコンは、モニターが三台並べて置いてあり、マウスはクリックする所が親指で、キーボードもクリアで光っていた。
あやとはゲーム好きで、パソコンゲームを少しだけやっている。
あやとの仕事は、会社の株価や評判、アンケート、顧客管理等といった、重要な役割である。
だが、それは、一日中、パソコンを見ていなくてはいけないわけではなく、自宅出来るし、あやとの他にも同じ仕事をしている人がいて、収集した情報と自分自身の感想や考えを資料にして提出して、それらを一気に管理している人にネットを通じて渡す仕事だ。
ゲームをやっているのにも仕事の一環で、ゲームで知り合った人から、会社の評判をそれとなく訊いて収集をしている。
そのパソコンとは別に、自分の個人的に使用しているパソコンがあって、それが右モニターに映し出されていた。
ペットと泊まれるホテルを最初に探すと、とても沢山あるのが見えた。
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