4「検査」

朝は、黒神の仕事。

昼は、本業の仕事。

夕は、家の仕事。


そんな風に一日をこなして、一ヶ月経った時だ。

母が、慌ててあやとを呼んだ。

何かと思い、クロも一緒に母の元へと行くと、郵便受けから郵便物を取り出したばかりと言わんばかりの、母がいた。


母は、郵便物の中から、太い茶封筒があり、名前があやとになっていた。


「これ、あやと宛てだけど、覚えある?」

「んー。ああ、これ、大丈夫。」

「覚えあるのね。だったら、いいわ。厚いけど、何が入っているの?」

「開けて見ないと分からないよ。」


あやとは、クロを肩に乗せて、その郵便物を持って、部屋に行く。


「ちょっと、黒神。こんな形でくれなくても。」

「まさかにゃ。」

「そう、黒神の仕事をしているから、そのお金だよ。」


開けて見ると、全てが万札だ。

しかし、いくらあるんだろう?


「この一ヶ月は、忙しかったからにゃ。」

「そうだね。結構な数、かんだね。」

「まさか、人間って、こんなに心に企んでいる数が多いにゃんてにゃ。」

「全く。」


思い出せば、とても、多くて大変だった。

ねずみから、干支をなぞるかのように、牛耳、トラ耳、ウサギ耳などの人がいた。


一番大変だったのは、同じ猫耳の人。

猫だからか、クロが後を付けるけど、気づかれ、クロを見つけられた。

その時には、クロが甘えた声で鳴いて、手を差し伸べて来た時に、その手をかんだ。

見ていてもかまれたのが分かるが、浄化されるとかまれた記憶が無くなっている。


しかし、クロ自身は、噛みたくないと思っているが、これは仕事と割り切っていた。

そのクロと黒神がくれたお金を見ると。


「だけど、この現金。銀行に預けたいけど…。」

「銀行のATMが受け付けてくれるかだにゃ。」


仕方なく、机の引き出しに仕舞った。





夕ご飯をつくっている時。


「で、中身なんだったの?」


母は聞いて来た。


「別に、会社から追加の仕事データだよ。」

「そういうの、メールでくるんじゃないの?」

「メールでも送れる量が限られているの。」

「そうなんだ。メールだと、いくらでも送れると思ったわ。」

「全てには容量ってあってね。」


と話しをしている。

帰って来ていた父は、クロを撫でながら、話しをしていた。


「あやとは、料理、上手くなっていくな。」

「にゃーにゃ。」(お母さんがついているからにゃ。)

「本当に、相手はいないのかな?」

「にゃにゃ。」(いないにゃ。)

「でも、いいか。元気が一番だ。クロも元気が一番だぞ。」

「にゃーにゃにゃにゃー。」(一度は失くしかけた命だから、大切にしたいにゃ。)


父は、クロを抱き上げると。


「結構、体重増えたな。重たいぞ。あやと、よく、この体重を肩で支えられるな。」

「え?そう?そんなに重たい?」

「重たいぞ。何キロだ?」


父は、脱衣場に置いてある体重計にクロを乗せて、台所に帰ってきた。


「おい、七キロから八キロあるぞ。」

「まあ、そんな位なら、大丈夫だぞ。」

「そうなのか?」

「もう、その重さに慣れたからな。父も肩に乗せて見たらどう?あまり、重さ、分からないよ。」


クロにウインクをすると、クロは父の肩に乗った。


「あれ?腕に下げると、あんなに重たかったのに、肩だと軽く感じる。」

「持ち方次第だと思うよ。」

「そうだな。ごめんな、クロ。重たいなんていって。」

「にゃー。」(体重をあやとに少し持って貰ったからにゃ。)


そう、父の肩に乗せる時に、クロの体重をあやとに少し移していた。

だから、軽く感じていた。


「しかし、クロは、人の言う事が分かるのか、返事をしてくれるな。」

「二十年も生きれば、人間の言葉を理解するって。」


クロの話しで盛り上がった。

夕食を食べている時も、クロの話しをしていた。


あやとが風呂に入っている時、父はクロをスマートフォンのカメラ機能を使って撮っていた。


「黒猫は、撮りづらいって聞いたけど、そんな事ないな。ほら、こんなにきれいな黒色で撮れている。」

「本当だ。すごいな。」

「あやとも、クロを撮ってやれ……、そうだ!あやととクロの写真が欲しい。」


父は、とてもテンションが高かった。


「いいよ。クロ。」

「にゃ。」


クロは、あやとが名前を呼ぶと、肩に乗ってくる。

その情景を見ると。


「本当に、クロはあやとの言う事は、分かるんだな。」

「生まれた時から、一緒にいるからね。」


あやととクロの写真を撮って、満足にしている父を見て、あやとは微笑んだ。


あやとは、自分の部屋に行き、布団に寝転ぶと、クロも寝転んだ。


「なあ?クロ。」

「何にゃ。」

「父は、クロから見て大丈夫だと思うか?」

「調べて見ないと、分からないにゃ。」

「そうだよな。」


すると、引き出しに仕舞った札束が目に入った。


「検査するのに、いくらかかるんだろう?」

「結構すると思うにゃ。」


ネットで調べると、検査入院が必要とあった。

三割負担、三万円から六万円と出た。

少し考えて、引き出しに仕舞った札束から、十万円程出して、違う封筒に入れた。


明日、父に渡そうと思って用意した。


「あやと、そのお金はどこからと聞かれたら、どうするにゃ?」

「俺が小さい頃から積み立てていたという。」

「受け取ってくれるかにゃ?」

「受け取らせる。そして、検査して貰って、安心してもらう。」

「安心したいにゃろ?」

「!………、そうだな。俺が安心したいんだ。」


クロは、あやとの足に頭をスリスリした。

あやとは、クロを抱き上げて、布団に入り。


「勇気をくれ。クロ。」

「あやと。」


クロは、あやとの頬を舐める。

あやとは、クロに舐められながら、眠りに落ちた。



次の日の朝ご飯の時。


あやとは、茶封筒を父の前に出した。

父は、何かと思い、茶封筒を受け取る。


「その封筒の中には、十万ある。それで、父さん、全て検査をしてきて欲しい。」

「いきなり言われても。」

「いいから、これからも母さんと一緒にいたいなら、お願いだから、身体検査してもらって。それと、母さんも。」


同じ額、同じ茶封筒で、母にも渡した。


「仲良く検査入院してきて、何もないのを俺に見せて。」


父と母は、顔を合わせ。


「しかたないな。息子を安心させるために受けますか。」

「そうね。何時がいいかしら?」

「今日、仕事から帰って来たら、決めよう。」

「いいわね。どこの病院にしましょうか?」


会話があった。

受け取ってくれて、気持ちを分かってくれた両親を見て、微笑んだ。

クロは、そのあやとを見て、自分の手を舐めた。


それから、検査の日が今度の金曜日、土曜日、日曜日になった。

病院に連絡してみたら、三日間コースだとじっくり検査出来るだった。


「三日間も、あやと、いいの?」

「いいよ。一人暮らしも二年続けていたし、たった三日間位大丈夫。それよりも、病院で検査入院とはいえ、旅行の気分で行って来てよ。健康だった場合は、本当に家族三人とペット可のホテルに行って、クロも一緒に旅行しよう。」


その言葉を訊くと、父も母も感動して、少し瞳に涙が浮かんでいた。



検査入院の日。

玄関先で、荷物確認をお互いにしている両親を見ているあやとがいた。

クロもあやとの足元にいる。


「じゃ、行ってきます。」

「日曜日の夕方に帰ってくるからな。」


両親は、あやとの顔、左右に顔を近づけて。


「「クロとお留守番よろしく。」」


同じセリフで同じ声のトーンで、話しをした。

あやとは、とてもくすぐったくて、照れた。


「ああ、いってらっしゃい。」


両親は、あやとの顔を見ると、頬が赤くなっているのを確認出来た。


「かわいいわ。あやと。」

「本当、かわいいな。」

「あー、もう、早く行って、検査して、元気な証拠見せて!」

「「はーい。」」


呼んであったタクシーに乗って、病院へと向かった。

その後を見ると、あやととクロは、難しい顔をさせた。


「見られているよな?クロ。」

「そうだにゃ。誰かにゃ。」


この一ヶ月、仕事をしてきたが、妙に見られている感覚があった。

視線を感じるとは、こういう感覚なのだろうか。

身体中が、とてもピリピリしてきて、何かに突っつかれている感じ。


とても気分がいいわけではない。


だから、この機会に、探ろうと思った。

幸い、本業の仕事は、金曜日の午後で終わり、土曜日と日曜日は休みだ。

黒神の仕事をしようと計画を立てていたばかりである。


「さてと、クロ。今日は一日、家にいて、早朝、出掛けよう。」

「分かったにゃ。」


家に入り、玄関や窓に鍵をかけて、自分の部屋にこもる。

そして、本業をしながら、外の気配に気を使っていた。

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