第2話 人質事件

「うごくな!!すこしでも動いたら、この女の命はないぞ!!」

「キャーーーー 誰かたすけて!!!!」


「犯人に告ぐ、犯人に告ぐ、今すぐ武器を捨てて投降しなさい」


「こちら、現場の牧野です。犯人の状況としましては、依然人質を解放しない様子です。また、警官隊も何も出来ずに拮抗状態になっています」


 朝から、かなり物騒なニュースがやっていた。どうやら、人質事件が起きているらしい。犯人の男は身長170cm半ばで、中肉の一般的な体型ではあるのだが、マンション12階のベランダでの立て籠もりという状況も相まって、警官隊も突入できずにいた。


ブロロロロロロロロロ (ヘリコプターの飛ぶ音)


 ほぼ全てのテレビ局が、立て籠もり事件の特番を放送しており、事の重大さを感じざるを得なかったが、事態が悪化するわけでもなく良化するわけでもなかった。


「それじゃ、こういう事件を起こす犯人ていうのは学生時代にトラウマがあるとかそんなんじゃないんですかね?」

「うーん、今根さん。そういう方のが多いていうデータはありますけど、必ずしもトラウマが犯行に繋がるというわけでもないのでね・・・」


 お茶を濁すような司会者と解説者の会話が続く。


(何か今回の事件は、想像よりもつまんないなぁ)


 女子高生の田村瞳は心の中でそう思った。

 当事者じゃない人間の感情なんてものは、このようなもので、事態が悪化するか良化するかのどちらにせよ盛り上がらないと気分もあがらないものである。


「すいません!!今根さん!!牧野です!!今、動きがありまして別のビルの映像を映します」


 そういってテレビ画面に映ったものは、別のビルの最上階の映像であった。


(ん?なんか人がいる?)


 田村瞳が見た先には、ビルの屋上のヘリポートエリアで腰を屈める一人の男性の姿であった。その男性は、屈めながらも少し左右に動いたり、今にも走り出しそうな雰囲気がある。


「あ、あれはリードだ!!」


 田村瞳がそう言った瞬間、男が走った。


「今根さん!!男が今走り出しました!!黒い野球の服を着た男性がビルの屋上を走っています!!」

「すいません、今根ですー。今、映像見えてます。かなりの好スタート切ったように思えますが、解説の遠藤さんどうですか?」

「そうですね。ちゃんとリードしてたのも合って完璧に盗んでましたね。あれは中々刺せない思いますよ」


 テレビタレントがそういう中、黒い野球姿の男は走っている。そして、ビルの端に辿りついたその瞬間、彼は宙を舞った。


ズシャァァァァァァァ


 彼は完璧ともいえるようなフォームで、頭から飛び込んで行きマンションの12階に飛び込んだ。


「せっセーフ!!!」


 主審が判定をコールした。それと同時に警官隊も突入した。


「犯人を制圧!!」

「被害者も無事です!!」

「ランナーもヘッドスライディングにより盗塁成功です!!」


 こうして、近年まれにみる凶悪事件の幕を閉じた。


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