(25)7月10日 水曜日

 着信アラート音。画面上の『応答』表示をスワイプする。



***



「おはようございます。7月10日水曜日、午前7時くらいをお知らせします」


犬童いんどうです。さて──」


「ぱっぱかぱーん。おめでとうございます。本日はなんと、あなたにモーニングコールをするようになって、ちょうど一ヶ月目になります」


「この期間、遅刻0回。お互い、頑張りました」


「ただ──今までで一番緊張しています。汗と震えがやばいです」


「思い出してしまったんですよ。一ヶ月前、あなたは言いましたよね。わたしからの突然の電話に対して、『相手が犬童さんだったから余計に驚いた』、と」


「この言葉の意味──ちょっと考えてしまって」


「勝手に、『地味で存在感のない親しくもないクラスメイトから突然電話がかかってきたから驚いた』、という意味だと解釈していたのですけど」


「昨日の話を聞いたあと、違う意味かもしれないとも思えてきて」


「いや、その。あなたがわたしのことを好きだという話を信じているわけではないですけど」


「一応、確認しておきたくて」


「────」


「────」


「ふふ、はぁ……。ふふふ」


「困りました。『片想いしている女の子から電話があったから、驚いた』、ですか」


「はぁ、どうしましょう。困ってしまいます」


「わたしはあなたのことが嫌いですし」


「わたし、この夏から予備校の夏期講習に行くことになっていて、真面目に受験勉強を始めようと思っているんですよ」


「時間に余裕があるのは帰宅部のアドバンテージですし」


「だから恋愛とかは……している余裕はなくて」


「どうしましょう。想定外の事態にパニックですよ」


「手汗でスマホが壊れてそう。はぁ……」


「ごめんなさい切ります。学校でお会いしましょう……」

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