(26)7月11日 木曜日

 着信アラート音。画面上の『応答』表示をスワイプする。



***



「おはようございます。7月11日木曜日、午前7時くらいをお知らせします」


犬童いんどうです。えっと、ダーリン?」


「────」


「────」


「あの、絶句しないでください。冗談です」


「よく考えたら、わたしが動揺する理由なんてないんですよね。わたしは別にあなたのことなんて好きじゃないんですし」


「だから、あなたのことを揶揄からかう余裕だってあるんです」


「だ、ダーリン」


「────」


「今、笑いましたか?」


「────! か、『可愛い』って、なんですか!」


「あのですね、なんでわたしの方が揶揄からかわれるんですか。好きだって言われたのはわたしの方なのに」


「はぁ……。もう、本当に、あなたという人は。やっぱり嫌いです」


「もうこの話は終わりしましょう。頭が変になる」


「ところで……数学のテストが返ってきましたけど、結果ってどうでしたか?」


「公式を間違って覚えていて、赤点かもしれないって言ってましたけど」


「────。はぁ、はぁ? 『公式の符号を間違って覚えていたけど、テスト中にさらに符号を間違って答えていたみたいで、結果としては正解だった』、ですか」


「なんですか、それ。あのですね……」


「なんか心配していたこっちが馬鹿みたいじゃないですか……」


「────。はぁ、『心配してくれたんだ』、ですか」


「ええ、心配していました。心配したら悪いですか?」


「もう知らない、切ります。学校でお会いしましょう」

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