(12)6月23日 日曜日

 着信アラート音。かなり躊躇してから、画面上の『応答』表示をスワイプする。



***



「こんばんは」


犬童いんどうです。日曜日のこんな時間にすみません」


「不安がよぎって、つい電話してしまいました。杞憂なら良いのですけど」


「一応の確認です。明日から、体育の授業がプールになります。水着を忘れると欠席扱いになってしまいます。覚えていましたか?」


「────。『もちろん忘れていた。でも大丈夫』、ってなんですか。なにがどう大丈夫なのでしょうか」


「────。なるほど、『水着は今月の最初の週に持って行って、ロッカーに入れてある』、ですか。はぁ、まあ、それはその」


「綺麗なやつなら大丈夫だと思いますけど、カビてないかは心配ですね」


「でも、あなたらしからぬ、用意周到な作戦ですね。忘れてはいるけど忘れ物はしていない、肉を切らせて骨は無事、みたいな?」


「────。はぁ、『通りすがりの占い師を名乗る怪しい高校生くらいのクラスメイトの女性の助言に従っただけ』、ですか」


「あの、その人って絶対、『見ていてなんとなく不安になる出席番号8番を見守る会』のメンバーですよね。というかクラスメイトの女性って、人物の特定までできているじゃないですか」


「わたしが心配するまでもなかったってことですね。それはそれでよかったです。その方にはちゃんとお礼を言っておいてください」


「ふふ、それにしてもプールですよ。楽しみですね。天気予報だと晴れそうですし、気温も上がりそう」


「────。『高校生にもなってプールの授業が楽しみなのは珍しい』、ですか? そんなことはないと思いますけど」


「お話はそろそろ終わりにしましょう。では、明日学校で」

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