(11)6月21日 金曜日

 着信アラート音。画面上の『応答』表示をスワイプする。



***



「おはようございます。6月21日金曜日、午前7時くらいをお知らせします」


「というわけで犬童いんどうです。ちなみにこんな名字ですが、名字に反抗して犬よりも猫の方が好きだったりします」


「────。『猫を飼っているのか』、ですか。はぁ、残念ながら飼ってはいません。猫の毛のアレルギーなんですよね。わたし──というか、我が犬童の一族は」


「猫好きたちの反抗は大いなる血脈の力によりあえなく鎮圧されましたとさ、めでたしめでたし」


「そろそろ本題に移りましょう。今日は金曜日、英語の予習が必要な日です」


「一応確認します。やっていませんよね? やっていないのなら、猫だの犬だのという話をしている場合じゃありません。早く支度したくをして学校に行きましょう」


「────。『心変わりした。ちゃんと予習をするようにする』、ですか?」


「それはつまり、今日の予習を済ませてあるってことでしょうか」


「それはありがたいですね。『見ていてなんとなく不安になる出席番号8番を見守る会』の熱い視線の中で勉強を教えるのは、かなり恥ずかしいですし」


「そもそもわたしは──実はあまり男の人に慣れていないので、あなたの予習を手伝っているときはすごく緊張しているんですよ」


「電話だと大丈夫なんですけど」


「なので、予習を済ませてくれているというのなら、かなりほっとします」


「────。『来週から頑張るから安心してくれ』って。昨晩は頑張っていないのですか?」


「あのですね、現在進行形で頑張っていない人が来週から頑張ってくれるとはとても思えないのですけど」


「とにかく急いで学校に行った方が良さそうなことは分かりました」


「今日もちゃんと予習は手伝います。あなたのためじゃありませんからね。缶コーヒーのためですからね」


「────。『いつもありがとう』って、はぁ、だからですね。お礼を言うくらいなら、先に予習を済ませておいてください」


「もう切りますよ。では学校でお会いしましょう」

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