　目覚ましアラームの代わりとなりつつある、お馴染みの着信アラート音が鳴り響く。

　画面上の『応答』表示をスワイプする。かなり間があって、それから犬童（いんどう）さんの声が聞こえる。

＊＊＊

「おはようございます。6月14日金曜日、午前7時くらいをお知らせします」

「というわけで犬童です。今日は応答がすごく早かったですね。びっくりして声がすぐに出ませんでした」

「────。目は覚めていたけど、電話がくるのを待っていた？　まあ、それは、その」

「つまりモーニングコールがいらなかったってことですよね。それはお邪魔しました」

「────。『そういう意味じゃない、犬童さんの声が聞きたかったから目が覚めても待っていた』って、なんですかそれ」

「わたしの声なんか、聞いていても楽しいものではないでしょうに」

「でも起きてすぐに電話で話をすると、なんとなく頭がすっきりしますね。だからこうして話をしていることに意味はあるのかもしれません」

「さて、今日は一つ伝言があります」

「英語の予習、忘れないように。『見ていてなんとなく不安になる出席番号８番を見守る会』からの伝言です」

「隣のクラスで、いつも英語の予習をやってこない人がいるんですけど、教師から『次に予習を忘れてきたら留年させる』って脅されたらしいです」

「もちろんただの脅しだとは思いますけど。見守る会は、いつも英語の予習を忘れてくるあなたのことが心配みたいです」

「というわけで早く学校に行きましょう。たぶん誰かが手伝ってくれます」

「それでは切りますね。学校でお会いしましょう」

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