(4)6月13日 木曜日

 変化も進展もなく、今日も耳障りな、着信アラーム音で目を覚ます。


 言うまでもなく、画面上の『応答』表示をスワイプして聞こえてくるのは、犬童いんどうさんの声。



***



「おはようございます。6月13日木曜日、午前7時くらいをお知らせします」


「というわけで犬童です。今朝はよく晴れていますね」


「でも傘は忘れないようにしてくださいね。今日は午後から雨の予報ですよ」


「────。『降らないかもしれないし、荷物になるから嫌だ』、ですか。あのですね、そういうところが──」


「そういえば、まだ説明していませんでしたね。『あなたを毎朝起こす係』について」


「実はですね、わたしたちのクラスには『見ていてなんとなく不安になる出席番号8番を見守る会』という組織があるんですよ」


「出席番号8番。あなたのことですよね」


「なんか心配になるみたいですよ。宿題をよく忘れるし、貸した教科書が戻ってこなくても気付かないし、遅刻も多いし」


「クラゲみたいに、なんとなくふわふわと行動していることも多いですよね。移動教室のときに女子の動きに釣られて女子トイレに入りかけたり」


「あとは──午後の降水確率が100パーセントなのに傘を持ってこないとか。というわけで、見守る会を不安にさせないために、今日は傘を忘れないようにお願いします」


「それで本題の『あなたを毎朝起こす係』についてですけど」


「この係はですね、『見ていてなんとなく不安になる出席番号8番を見守る会』の不安解消を目的に作られた係のようです。ちなみにわたしは見守る会の会員ではありません。なので、どうしてこの係に任命されたのかも分かりません。この係がなんなのかも、よく分かっていません」


「ただ会員さんからは毎日飲み物を奢ってもらえます。ある意味で、あなたのおかげで得をしています」


「今度、お裾分けいたしましょうか?」


「────。『俺からもお礼したいから奢らせて欲しい』って、いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です」


「あなたは寝坊しないでいただければ良いのですよ」


「では、そろそろ切りますね。学校でお会いしましょう」

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