(3)6月12日 水曜日

 今朝もスマートフォンから、耳障りな着信アラーム音が鳴り響く。


 画面上の『応答』表示をスワイプする。それから聞こえてくるのは、今日も変わらず落ち着きがあって淡々とした口調と声色こわいろ──犬童いんどうさんの声だ。



***

 


「おはようございます。6月12日水曜日、午前7時くらいをお知らせします」


「というわけで犬童です。起きましたか? 今日は少し、応答が早かったですね」


「外、見えますか? あなたは自転車通学ですよね。見ての通り雨が降っているので今日は自転車が使えません」


「わたしはいつもは自転車通学ですけど、今日はバスを使います。あなたもですよね」


「────。そうですよね。学校が駅から遠いので、面倒ですけど雨の日はバスを使うしかないんですよね」


「そのうちバスの中で会う機会もあるかもしれないですね」


「────。はあ、まあ。『時間を合わせれば一緒のバスに乗れるね』って、その通りですけど。どうせ学校で会うのにわざわざそんなことをする必要はありますか?」


「それではそろそろ──」


「────。『バスの中で話し相手がいれば退屈しないよ』、ですか。まあ、そうかもしれませんね」


「でもわたしはバスの中では音楽を聴いているので、あまり退屈はしていませんし、わざわざ待ち合わせをしてまで同じバスに乗る必然性は感じられません」


「切りますよ。では学校でお会いしましょう」

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