(2)6月11日 火曜日

 スマートフォンから、耳障りな着信アラーム音が鳴り響いている。


 画面上の『応答』表示をスワイプすると、着信音は止まった。そして少しだけ間を置いて、落ち着きがあって淡々とした口調と声色こわいろ──犬童いんどうさんの声が聞こえてくる。



***



「おはようございます。6月11日火曜日、午前7時くらいをお知らせします」


「というわけで犬童です。応答してくれたってことは、起きてくれたってことですよね」


「じゃあ本日の任務は完了ですね。今日は昨日よりも時間がぎりぎりなのでもう切りましょうか」


「ん、待って欲しい、ですか?」


「────。なるほど、『結局、毎朝起こす係ってなに』、と。そうですね、昨日もお伝えしましたが、わたしもよく分かっていません」


「あなたがもう少し早く起きてくれれば、知っている範囲で事情を説明する時間もありましたけど」


「では切りますね。学校で会いましょう」


「ん、一つ相談がある、ですか」


「────。はあ、『嫌じゃなければお互いLINEの友達登録しないか』ですか」


「通話料もかからないし、毎日かけるのならアプリを使った方が良いと」


「なるほど、ご配慮には感謝いたしますが──わたしはあなたと友達ではありませんし、無料通話契約の範囲内で済むと思うので通話料もかかりません。なのでLINEの友達登録は遠慮させていただきます」


「では今度こそ切りますね。では」

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