Day7 ラブレター
サマーブルーム境町203号室。
うちの幽霊は、クローゼットに出る。
作り付けの小さなクローゼットの中に、女が立っていることがある。
髪の長い、青いワンピースを着た女で、いつも壁の方を向いている。
万が一目が合ったら嫌なので、彼女がいるときにはすぐにクローゼットを閉めるようにしている。急ぎの用事のときは、薄目を開けて必要なものを取り出す。
怖いし、不便だ。でも相場よりもかなり安い家賃で済んでいるのは、この女がクローゼットの中にいるからだろう。
ある日、私はふと考えた。
(あいつ、何でクローゼットの中にしか出ないんだろう。もしかしてあそこに気になるものでもあるのかな?)
幽霊が出る場所に、いわくありげな遺品があって――なんて、いかにもありそうな話だ。
女がいないときを見計らって、クローゼットの中を探してみた。天井に点検口があり、その蓋の裏に封筒が一枚、テープで貼り付けられていた。誰かがわざわざここに隠したのだろう。
中には便箋と、写真が一枚ずつ入っていた。便箋には神経質そうな細い字で『あなたの気持ちはわかりました。わたしはあなたをいつまでも愛しています』と書かれていた。写真には笑顔の男女が写っている。女性がクローゼットの幽霊と同一人物かどうかはよくわからない。ただ、幸せそうなふたりに見えた。
私はその手紙と写真を、封筒ごと近くの寺院に持っていき、お祓いをお願いした。これでクローゼットの幽霊は成仏できるのではないだろうか。そしていなくなってくれるのではなかろうか――と期待したが、現実はそんなに簡単なものではないらしい。
今しがたも、青いワンピースの女を見て、慌ててクローゼットを閉めたところだ。足の向きを見るに、どうも最近、少しずつこちらを向いてきているような気がする。
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