Day6 呼吸
サマーブルーム境町202号室。
うちの幽霊は、トイレに出る。
明け方、あたしはいつも酔っ払って帰ってきて、よたよたとトイレに向かう。
自分の吐瀉物が水に沈んでいくのを見ながら、便器を抱えて泣いていると、頭の後ろに誰かの息遣いを感じる。
それはだんだん近くなる。まるでそこに本当に誰かがいるような、生々しい存在感がある。でも、幽霊だ。後頭部に生ぬるい息がかかる。横に逸れ、耳元で誰かの呼吸音が聞こえる。時々痰が絡まってごろごろ言う。
音のする方を向いてしまうとなにかイヤなものを見てしまいそうだから、見ない。
そいつの息は血と胃液の匂いがする。あたしはそれを嗅いでもう一度吐き気をもよおし、胃の中のものを徹底的に便器の中にぶちまけてしまう。
そして無性に悲しくなって、便器を抱えてぐずぐず泣く。いつの間にか世間は朝になって、そいつは消えてしまう。あたしはひとりぼっちになる。
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