Day5 琥珀糖
サマーブルーム境町201号室。
うちの幽霊は、窓辺に出る。
東側に縦長の窓がある。
そのすぐ外を、時々人影が通りかかる。
二階の角部屋である。窓の外にはベランダも、足場になるような屋根もない。
きっと人ならざるものなのだろうと思うけれど、気にしないことにしている。
なにせ、ちょっと外を通るだけだ。
そんなことを気にするような人間は、おそらくこのアパートには住んでいない。
もっとも、実害はある。
琥珀糖を作った。こう見えても可愛らしいものが好きなのだ。
寒天に砂糖や食紅を混ぜ、適当な大きさにカットし、風通しのいい場所に放置する。侵入者の心配の少ない東側の窓を網戸にし、広い窓枠の上に琥珀糖の皿を載せておくことにした。
三日ほどで食べ頃になるはずだ――と楽しみにしておいたのを、どうやら幽霊にやられた。
翌日、乾かしておいた琥珀糖のいくつかに、人間の歯形がついていた。
自分のものではない。子どものように小さい。
丸ごと一欠片ではなく、ちょっとずつ齧ってあるのが腹立たしい。もちろん琥珀糖は違う場所に移し、齧られたものは捨てた。
その夜、東の窓をコンコンと叩かれた。
ほうっておくと一時間も二時間も叩いている。仕方がないので、乾燥途中の琥珀糖をふたつ、小皿に載せて窓枠に置いた。
案の定ノックは止み、翌朝になると琥珀糖はなくなっていた。
それ以来、甘いものを切らすと煩い。今日は金平糖をいくつか置いてある。
幽霊に餌付けをしたつもりは、断じてなかったのだが。
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