「誰よりも強くなる」呪いを授けましょう
小柄な男だった。
「あの……自分、弱いんです」
男はオドオドしながら言った。
陰鬱な空間。現実にあるかも分からない呪いの館。
そこで、小柄な男と私は向かい合っている。
「……それで?」
私は男の話の続きを促す。
「力の強い奴には絶対に勝てなくて……。悔しくて、悔しくて……」
小柄な男は涙を浮かべる。
「それで、どうしたいのかい?」
「だから、強くなりたいんです!」
男は涙を拭うと、顔を上げて私を見る。
「本当に、強くなりたいんだね?」
私は小柄な男の意思を確認する。
「…………はい。負け続けの人生は嫌です。自分は、誰よりも強くなりたい!」
男は決意に満ちた表情になる。意思は堅いようだ。
「分かったよ。じゃあ、君に誰よりも強くなる呪いを授けましょう」
「本当ですか! 自分、誰よりも強くなれますよね!?」
「もちろん。誰よりも、地球上の誰よりも強くなれるよ」
私はそう言ってから男の肩に触れる。
「はい、呪いをかけたよ。これであなたは誰よりも強くなれる。地球上の誰よりも、ね」
「ヨシッ! これで自分は強くなれるんだ! 誰よりもっ、誰よりもっ……!」
そう力いっぱい声を出すと男は去っていった。
それからしばらく経って、世界最高の格闘技イベント
なんでも、小柄な身体ながら、どんな相手も倒してしまうんだとか。
一撃必殺の右ストレートを放つハードパンチャーの右ストレートを何発食らっても倒れず、対戦相手に地獄の苦しみを与える関節技を持つ柔術家の関節技で関節をいくら外されようともギブアップをせず、足を徹底的に破壊するローキックが武器のムエタイ選手のローキックで歩けなくなるまで足を破壊されても倒れず、最後には奇跡的な勝利を掴む小柄なファイターに観客は熱狂した。
結局、その小柄なファイターは一度として敗れることなく、優勝を果たし、誰よりも強いことを証明した。
優勝インタビューで、そのファイターはインタビューに答えた。
「自分は、誰よりも強い! 誰よりも強くなければならないんです! だって……だって自分は! 誰よりも強いという呪いを背負っているんだから!」
その言葉に誰もが感動した。
UFTが終わり、興奮冷めやらぬ内に、誰よりも強いファイターは次の目標を掲げた。
「自分は、地球上の誰よりも強くなければいけない! 次は、人間よりも強い相手、アフリカゾウを倒します!」
さすがに無謀すぎると誰もが彼を止めようとしたが、地球上の誰よりも強くなるまでファイターの挑戦は続くようだ。
例え、どんなに彼自身が闘いをやめたがろうとも。
例え、どんなにアフリカゾウに蹴飛ばされ踏み潰され吹っ飛ばされて、身体中の皮膚が破れ血が吹き出し、骨と内臓がグチャグチャになったとしても……。
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