あなたに呪いを授けましょう

市川タケハル

「いつだって明るくいれる」呪いを授けましょう

 その男は酷く暗い顔をして訪れた。

「明るくなりたいんです」

 その男は暗く深刻そうな顔で、そう切り出した。


 暗く淀んだ空間。現実そこにあるのかどうかも分からない、不可思議な館。

 そこで、男と私は向き合っている。


「うちは呪い屋だ。呪いを掛けることしかできないよ」

 私は男にそう返す。


「実は、僕は配信者なんです。でも、どうしても明るくなれなくって……。そんなんだから、いつまで経ってもリスナーには好かれないし、売れないし……」

 今にも死にそうな顔と声で喋る男。


「君の切実な現状は分かったよ。で、呪い屋の私にどうしてほしいんだい?」


「…………明るくなる呪いをかけて欲しいんです」

 男が絞り出すように声を出す。

「なるほど。分かったよ。君に明るくなれる呪いをかければいいんだね?」

 私は男に確認をする。


「はい。お願いします……」

 男はぺこりと頭を下げる。

「だけど、これは呪いだよ。効果は絶大な反面、失うものも大きい。それでも呪いをかけてほしいかい?」

 私は男の目を見据え、男の意思を推し測る。


「このままでは、配信者として何もなせずに終わってしまう……。だから……だから、お願いします……!」

 男は90度に腰を曲げてお辞儀をする。

「あなたの意思は分かりました。……呪いをかけましょう」


「はいっ! ありがとうございます!」

 男はニカッと笑う。

「では、あなたに、呪いをかけましょう」

 私はそう言うと、男の肩に軽く触れる。


「はい、呪いをかけましたよ。これであなたは、いついかなる時でも明るくいられるようになりました。もう絶対に、暗いあなたには戻ることはありませんよ」

 私が男にそう声をかけると、男は不思議そうに私の顔を見つめてくる。

「……あれ? 呪いってこんな簡単にかけられるんですか!? それに、失うものって? 何も失ってない気がするんですが」


「はい。呪いはちゃんとかけましたし、ちゃんと失うものもありますよ」

 私は微笑んで男に言う。

「そうですかっ! ありがとうございます! これで、もう暗い自分とはオサラバだ!」

 男は満面の笑顔になって小躍りしながら、去っていった。


 そう。男はもう暗くなんてならない。いついかなる時でも明るくいられるんだよ。


 それからしばらく経ってから、男は大人気配信者になった。なんでも、配信ではいつでもニコニコ明るい配信スタイルが、元気をもらえるとして注目されているようだ。


 配信で、どんなにからい物を食べても明るく、コラボ配信でコラボ相手からどんなにダメ出しを食らっても明るく、リスナーからどんなにひどいイジりをされても明るい。

 更に、プライベートで男を見かけた人によればプライベートでもいつでも明るく、ストーカーに追いかけられてもニコニコと明るく、厄介ガチ恋勢に刺されそうになってもずっと明るく振る舞っていたそうだ。


 その姿を見た人は「配信者の鑑!」と感嘆し、そんなに明るくできる理由を男に訪ねたそうだ。


 そしたら男はニコニコ明るく笑いながら、こう言ったそうだ。

「いついかなる時でも明るくするしかできなくなってしまったんだよ」


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