46 フォンレスト攻防戦06



 不死鳥のまま、セイナの気配を追って領主屋敷に向かう。

 神獣の元である神気がセイナのスキルから生まれていることもあって、あいつらの居場所はすぐにわかった。

 屋敷のどこにいるかもわかる。

 強化された視力が、窓越しに戦いを確認する。



●●セイナ&ミラ●●



 戦いは、ひどくやり辛かった。

 まず、部屋が狭い。

 貴族の令嬢の個室だ。他と比べて狭いわけではないのだが、大勢が戦うのに向いているはずもない。

 そして、エメルネアの存在がある。

 ベッドで寝たままの彼女の側にティータがいる。

 エメルネアを救い出すこともままならず、流れ矢を恐れて弓矢を使うこともできない。

 結局、多くの騎士は戦うこともできず、実際に剣を振ったのはミラと騎士隊長の二人だけだった。


 異変を察知して兵士を指揮していた領主もこの場にやってきたけれど、なにもできずに立ち尽くしているだけとなった。


 セイナはそんな二人が怪我をすれば、すぐに回復魔法で癒す。

 狭い場所で、周りに気を使うミラは酷く戦いにくそうにしている。

 騎士隊長も、ベッドで眠るエメルネアを気にして思いきり動けない。

 ティータの召喚した守護女神だけが、好き勝手に動いている。


「あ、はははは!」


 そして、ティータが笑っている。

 いろんなことから解放された様子の彼女の笑い声は、脱力しきっていて、薄気味悪い。


「どうしたんですか? 騎士隊長さん? そんなので眠れるお姫様を救うことはできませんよ?」


 ティータの挑発に騎士隊長の表情が歪むけれど、感情に任せて動くことはない。


「はぁ……みんなしてこんなところにいていいんですか? 魔物は生きているんでしょう?」


 だらりだらりと体を揺らし、ティータは煽ってくる。


「私なんか相手している間に、街が滅んでもいいんですか? 知りませんよ。帰るところがなくなっても」

「くっ!」

「放っておいてくれればいいんですよ。私はお嬢様の苦悩を取り去りました。それで十分です。もうこの街に興味ないんです。さっさと街から出て行かせてください。そうしたいのでしょう?」

「……君を辛い立場にしたことは心苦しく思っている」


 口を開いたのは、来てからずっと黙っていた領主だ。

 喋る暇もなかったというのが正解だろう。


「娘を寝たままにして喜ぶ親などいない。あの布告は、民への建前であり、親としての本音でもあった。それに巻き込まれた君の心情は察する。だが……」

「あ、そういうのはいいんです」


 ティータは領主の苦悩をバッサリと切り捨てた。


「もういいんですよ。もういいんです。だから、私をもう、放っておいてください」

「……あなたがいい加減にしてください」


 そう言ったのは、セイナだ。

 ミラと騎士隊長の後ろに控えて、いつでも回復魔法を使えるようにしていた彼女は、ついに堪えきれなくなって二人よりも前に出た。


「自分勝手な事ばっかり。エメルネアさんの心配をしているのかと思ったら自分のことばかり。そんなに嫌ならさっさとこの街から出ていけばよかっただけなのに、私たちを騙して、やり返すことばかり考えて……」

「それはごめんなさい。でも……」

「もう、あなたの言い分は聞きたくないです」

「っ!」


 ティータは、なにか嫌な予感がしたのだろう。

 守護女神がミラたちからセイナの前に移動する。

 だが、それに意味はない。

 セイナが拳を握り、それを守護女神に振る。

 守護女神は盾を構えた。

 盾は拳を受け止めた。

 そして盾は割れた。

 衝撃はそのまま守護女神本体を襲い、あっさりと崩壊していく。


「これからは、私の言いたいことを言う番です」


 守護女神があっさりと崩壊したことにティータは驚き、しかしすぐに新しい薬を取り出すとそれを飲む。

 すぐに守護女神が現れた。


「あなたのその怪力は恐れていたけど、でも、まだ私の薬もまだ……」


 ドバンッ!


「あっ……」

「薬が、なんですか?」

「くっ!」


 ティータが新たな薬を飲む。

 最初に言っていた言葉通りなら、その薬も魔力増幅薬なのだろう。

 飲むたびに守護女神が現れ、そしてセイナの拳で粉砕される。


「あなたは身勝手です。他人を蹴落としたいと思うのは勝手です。勝手にすればいいです。でも、あなたは私たちを騙した。私たちを利用した」

「くうっ!」


 セイナは距離を詰めない。

 現れる守護女神をその度に拳で潰し、喋っていく。


「犯罪なら法に裁かれます。だけど、法がそこまで強くないのなら、私たちを騙した分は、私たちが捌きます」

「ぐっ、うう……」


 何度目か。

 新たな魔力増幅薬を飲もうとしたティータは、たまらずに吐き出した。

 薬効の限界が訪れたのか、それとも胃が容量的な限界を迎えただけなのか。


「あなたは、もう終わりです」

「うう……ふざけないでしょ!」


 床に全てを吐き出したティータは、ふらつきながら立ち上がる。

 その手には、ナイフがあった。


「まだこっちには、お嬢様が……」


 ティータがそう言った瞬間、ガラスが割れ、飛び込んだ物がティータの背中の蹴り、彼女を自らが吐いた汚物の上に転がした。


「ようし、間に合った」

「タク君!」


 ティータの背中に立つ炎の翼を持つイワトビペンギンに、セイナは駆け寄った。

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