43 フォンレスト攻防戦03
窮地の中にあったら、みんながみんな、なにかを考えているらしい。
その考えの一つが空の上で形になったというか、形として消えた。
ざわっとした空気を感じ、俺たちは休憩していた部屋から出た。
「守護女神が」
呆然とした呟きを耳にして空を見てみれば、そこには邪霊の姿しかなかった。
守護女神が消えた?
「負けたのか⁉︎」
「わかんねぇ、いきなり消えた」
「そんな……」
「嘘だろ」
動揺の声がそこら中で聞こえ、中にはその場で膝を付いている者もいる。
守護女神は兵士たちの精神的支柱になっていたことは確かで、それが失われたことで心が折れてしまったようだ。
「いや、座ってる場合じゃないだろ」
俺が言うが、兵士たちの反応は悪い。
そしてその間に、自由になった邪霊が街の中へと降りていった。
「ああ、くそっ! ぶっつけ本番だ!」
何人かは邪霊を止めるために動き出したようだが、兵士や傭兵の動きは鈍い。
冒険者らしき連中の方が頭を切り替えて素早く動いているように見える。
俺も冒険者だ。
というか、守護女神への依存がそれほどじゃなかったってことなのかもな。
「さっきのやるぞ。セイナ」
「うん!」
「それが終わったら、二人で領主屋敷を見にいってくれ、お嬢さんになんかあったんなら、セイナの回復魔法が役に立つかもしれない」
寝ていたせいで遅れて出てきたミラにも言い、俺は街の中から上がった爆煙を睨んだ。
「いくぞ!」
スキルを発動する。
使ったのは、前に手に入れた【聖獣化】。
そして、新しく手に入れた【飛行形態】。
さらにセイナの【成長補正】の+4を消費して獲得した【神気】のスキルで、俺に神の気を注ぎ込んでもらう。
「おっしゃ! 予想通り!」
この瞬間、俺はホッパーコカトリスから、神獣フェニックスに変化した。
まぁ、見た目は炎の翼を背負ったイワトビペンギンだけどな!
「じゃあ、頼んだぞ!」
俺は二人に声を掛けて、邪霊に向かって飛んでいった。
●●セイナ&ミラ●●
邪霊に向かっていったタクトを見送ると、二人は領主屋敷へと急いだ。
その間にも街の中で激しい戦闘音が響く。
タクトと邪霊が戦っているのだ。
その音が聞こえる度に、セイナは胸の中がギュッとする気分になった。
タク君が戦っている。
これまでも戦っていたけど、こんなにはっきりと離れたのは初めてかもしれない。
いや、あのアリの巣の時もそうだったか。
そうだ、あの時も辛かった。
見知らぬ場所。
見知らぬ世界。
わけのわからないこんな場所で、セイナはタクトと二人だけになってしまった。
タクトと二人でいたから冷静でいられた。
一人だと、どうにもならない。
不安で不安で、潰れてしまいそうになる。
なにをすればいいのかわからなくなる。
なぜだかわからないけど、体は以前よりも丈夫で疲れ知らずになっているけど、そんなことは関係ない。
一人は嫌だ。
だから、タクトがいてくれてよかった。
そんなタクトと離されてしまった。
しかもタクトは邪霊っていう強い存在と戦っている。
それなのにセイナはタクトの側にいられず、だけどタクトに頼まれたのだから向かわないといけない。
辛い。
怖い。
こんなところで一人でなにかをするなんて、セイナには……。
その時、セイナの手を誰かが掴んだ。
ミラだ。
「大丈夫です。ボクもいます!」
ミラがそんなことを言う。
セイナは呆然と彼女を見た。
この世界で初めてできた友達。
タクトほどじゃないけれど、信頼している人。
信頼。
そうだ。
タクトに信頼されて任されたんだ。
やらないと。
「うん」
「あ、イタタタタッ! セイナさん、もうちょっと力を緩めて」
「あっ、ごめん」
手を握り返した時に力を入れ過ぎてしまった。
慌てて回復魔法を使い、二人は領主屋敷に急いだ。
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