42 フォンレスト攻防戦02
それから三日、俺たちは戦い続けた。
魔物の群れは休みなく襲いかかってくる。
幸いなのは魔物に攻城兵器の概念がないことかもしれない。
死の恐怖がない奴らが破城槌でも持って門を叩きまくっていたら、今頃は破られていたかもしれない。
奴らは門に体当たりするか、壁をよじ登ろうとする。失敗して墜落死するか、弱っているところを仲間の魔物に踏まれて死に、そのままそこで踏み台となる。
死体の坂道が出来上がりそうになるのを、兵士たちは油を撒いて、炎の魔法を放ったり、あるいは爆発させて崩したりしている。
魔物の数は一向に減った様子がなく、こちらは疲労ばかりが募っていく。
空でも、守護女神と邪霊が戦い続けている。
「まずいですね」
ミラが呟く。
その顔色はよろしくない。
冒険者たちも動きが悪くなってきたことから、今日は休みをもらっている。
俺たちは比較的元気だったので、壁の上で手伝いをしている。
「ずうっと戦ってるもんな」
おかげで【衝撃邪眼】が+2から+4まで上がったし、【X%001】がまたできた。
セイナの成長もすごい。【魔物使い】が+4に、【成長補正】が+4、【回復魔法補正】が+7になった。
一人の怪我を癒す【回復】しか持っていなかったのに、周辺の怪我人を癒す【領域回復】という魔法が勝手に生えてきた。
「これ、持久戦になったら負けじゃないか?」
【衝撃邪眼】の威力が上がって貫通レーザーみたいなことになっているのだけれど、それでも魔物の数は減らない。
魔境の奥にどれだけの魔物が潜んでいるのやら。
まるで無限に湧いてきそうだ。
「俺たちでできることを考えた方がいいかもな」
いまは休憩時間。
周りには死んだように倒れ込んでいる兵士が山ほどいる中で、俺はそう言った。
「なにか、考えているのですか?」
「まぁな」
「さすがタク君!」
セイナにひっつかまりグエッとなる。
戦ってないのに身体能力が上がってないか?
俺の方が戦闘して、レベルアップみたいな成長が起きているのになぁ。
「セイナ、死ぬ」
胸部の柔らか装甲と頑健なホールドで窒息死する。
「ご、ごめん」
「それで、考えというのは?」
「作戦ってほどじゃないさ」
俺には【X%001】があって、セイナには【成長補正+4】がある。
俺のスキルは正体不明なところがあるが、俺の考えを反映したスキルに変化してくれるし、セイナの【成長補正】も重なった+分を一気に消費することで普段とは違うレアなスキルを入手できることは、【退魔特攻】の件でわかっている。
「そいつを組み合わせることで、なんとか一発逆転なことができないかなってさ」
「それで、どれぐらいのことができそうなんですか?」
「それをこれから探ろうってな」
というわけで、その休憩時間を使い、色々と考えて模索した。
実際に【成長補正】の+4分を使ってなにが獲得できるのかをセイナに確認してもらい、それを利用して、【X%001】を消費して得るスキルと相乗効果があるようなものとなると。
なにも手伝えないと知ると、ミラは体力回復を優先して眠ってしまった。
「ううむむむ……」
候補はいくつかに絞ったのだけれど、決定的なのかどうかとなると決断ができない。
なんとなくでやってきた街のために、なんでこんなに必死に考えないといけないのかと思わないでもない。
見捨てて逃げても問題ないだろと思わないでもない。
だけど、ここまで関わってしまったのだから、ここでなにもかもを放り出すっていうのも、俺の趣味ではない。
「タク君」
「うん?」
俺が悩んでいるとセイナが声をかけてきた。
「なんだよ?」
「私、タク君と一緒に来れて、良かったよ」
「うん?」
「異世界」
「お、おう……」
「こんなこと、この体が丈夫でも一人じゃきっとなにもできないと思うから」
「そうか?」
セイナはいざとなれば体が動くタイプだ。
そうでなければ、トラックに轢かれて死ぬこともなかった。
罪悪感がチクリと刺してくる。
「私は一人じゃなくて良かったよ」
だけど、そう言って笑うセイナを再び見ることができて、俺はよかったと思っている。
「だから、失敗しても私はタク君を責めたりしないし、怒られたら一緒に謝るからね」
「……なんで怒られなきゃならんのだ」
「え? だって」
「俺らの問題でもないことに解決のために努力してるんだぞ。失敗してもありがとうぐらいは言ってもらいたいもんだ」
体が軽くなった気がした。
あんまり気負いすぎるもんじゃないかもな。
「よし、こうなったら見せつけてやろうぜ。俺とセイナの合わせ技をな」
「うん!」
迷うことはない。
俺たちは、選んだスキルを獲得した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。