41 フォンレスト攻防戦01
無数のイビルウルフが一斉に吠える。
妙に甲高い、女性が恨めしげに泣いているような声に聞こえなくもない。
こんな気持ち悪い声で鳴く獣がいるのか?
そう思っていると、奴らの頭上で変なことが起きた。
「出るぞ」
ギルドマスターの声と共に息を潜めていた冒険者たちに緊張が走る。
奴らの頭上に集まったなにかが形を成した。
それは半透明な黒に近い灰色の獣だった。
イビルウルフのような四つ足で、四肢の付け根のところなんかに角のようなものが装甲みたいに張り付いている。
頭部にも嘴のような長い三角錐の仮面が張り付いていている。
その装甲の部分だけは、実体のようにはっきりと存在していた。
「邪霊だ」
「邪霊?」
「イビルウルフの特殊能力に邪霊を召喚し操るというものがある。それが、群れとなって、集団で強大な一体を召喚するというものになったようだ」
「あれは、危ないんじゃないですか?」
ミラが心配する。
俺から見ても、あれはかなりやばそうだとわかる。
なにより邪霊は空に浮かんでいる。
空を移動されたら、街を守る門や壁は意味がない。
「大丈夫だ。そのためにあの方がいる」
その言葉に応じたわけではないだろうが、街の空でも変化が起きた。
稲光のような鋭い光が一度走り、それは姿を現す。
「女神様?」
それを見たセイナがそんな感想を漏らした。
剣と盾を構え、ヒラヒラとした飾りのついた鎧を着込んでいる。
淡く光を放ち続けているためか、顔はよくわからない。
その姿は、北欧神話の戦乙女とか、ギリシャ神話の戦女神を連想させる。
だから、セイナもあんなことを言ったのだろう。
そしてこれが、エメルネアとかいうお嬢様のスキルなのか。
「俺たちはあれを守護女神と呼んでいる」
その守護女神の登場を察知した邪霊が動いた。
向かってきた邪霊に守護女神も応じ、空中で激しい戦闘が始まる。
邪霊は装甲の他に、牙や爪も実体化しているようで、盾にそれが当たるたびに激しい音と光が生まれる。
対する守護女神の剣が邪霊を薙ぐと、胴体の部分はすり抜ける。
だが、仮面や装甲の部分に当たると火花が生まれているようなので、弱点はそっちなのか?
「さあ、女神様のスカートばかり見てられないぞ! やるぞ!」
「「「「おお‼︎」」」」
上空の戦いを見物しているとギルドマスターが吠えた。
冒険者たちが応じる。
「門への圧力を少しでも減らす。攻撃開始!」
宣言と共に冒険者たちは弓矢と魔法で魔物の群れに攻撃を仕掛けた。
それに反応して近づいてきた魔物が現れると、後退し、そいつらを本体から十分に引き離してから、囲んで殲滅するという方法を取る。
俺は【衝撃邪眼】で遠距離攻撃。
ミラは囲んで殲滅する。
セイナは殲滅後に怪我人を治療する。
三人とも忙しく動き回った。
「退却! 退却!」
ギルドマスターがそう命じたのは、日が落ちかけた頃だ。
さすがに冒険者たちは体力の限界となっていた。
それでも無事に退却し、街の中に戻ることができた。
「あんたらのおかげで死傷者なしだ。たすかったよ」
門の中に入るなり座り込んで動けなくなった冒険者たちに、セイナは怪我人がいないか聞いてまわっていた。
ミラもさすがに座り込んでいる。
俺もまだ大丈夫。
戦いの音は無くならない。
奴らは夜だから退くという考えはないらしい。
泣き声のようイビルウルフの吠え声は気味が悪い。
これでは街にいる人たちは、気が休まる時がないだろう。
「今回は、しつこいな」
誰かが空を見てそう言った。
そこではまだ、守護女神と邪霊が戦っている。
「いつもは違うんですか?」
「ああ、朝に始まれば、夕方にはある程度は落ち着くんだ。それなのに、なんだか今回は、勢いが落ちない」
セイナの問いに、その冒険者が答える。
「なんだか、嫌な予感がするぜ」
その言葉が原因ではないだろうが、この後、状況に変化が訪れた。
悪い方に。
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