39 ティータと話す



 ギルドマスターの話を聞き、領主との面会は受けるがティータがいるかどうかはこれから話し合うということになった。

 ここ数日、寝泊まりさせてもらっていたティータの家に戻る。


「あっ、おかえりなさい!」


 俺たちが戻ってきたのを確認して、ティータが嬉しそうに寄って来た。

 だけど、セイナたちの表情を見て、すぐに足を止める。


「ああ……あまり、よい反応はもらえなかったみたいですね」

「ええと、ティータさんは知らなかったんですか?」


 セイナが尋ねた。


「なにをですか?」

「お嬢さん、エメルネアさんのスキルのことです」

「……」


 あ、黙った。

 知っていたのか。


 ギルドマスターにエメルネアのスキルの内容も教えてもらった。

 彼女のスキルは【夢中の救世主】。

 寝ている間だけ発現できる特殊な召喚体に戦わせるというものだ。

 ひどく限定的だけれど、それだけに強力なのだろう。

 いまのところ負けなしなのだそうだ。


「知っていましたよ。私は、寝ているお嬢様の健康を管理するために領主様に呼ばれていましたから」

「それなら、どうして眠りから醒まそうなんて思ったんだ?」


 エメルネアの眠りはスキルによるものだ。

 薬でどうこうできるものではない。

 だけど、ティータの薬はなんらかの反応を見せた。


「だって、おかしいじゃないですか。お嬢様だけが辛い思いをしないといけないなんて」


 低く、そう呟いた。


「お嬢様は、女の子なんですよ。貴族のお嬢様なんです。もっと着飾ったり、恋をしたり、そういうことを楽しんだっていいじゃないですか。大人になったら望まない人と結婚したりしなきゃいけないんですよ。それなら、いまを楽しんだって……」


 そう言って、言葉を詰まらせる。


「どうしてそこまで?」


 と、セイナが聞いた。

 どうしてそこまでエメルネアに肩入れしているのか。

 俺にもぜんぜんわからない。


「わかんないですよね」


 ティータが自嘲気味に笑う。


「私にもわからないんですよ。私も他の街の人と同じぐらいの距離感でしかお嬢様のことを知らなかったんです。でも、お世話を頼まれ、眠ったままなにもできないお嬢様のことを見ていたら、だんだん、たまらなくなって」

「で、形だけの治療者募集に乗っかって薬を飲ませて、追い出されたわけだ」

「でも、自身のスキルの能力で眠っている人を起こすような薬なんてあるんですか?」


 俺が呆れていると、ミラが質問した。


「この本に書かれている薬なら効果があったんです! だから、ポポリ草で強化したいまの薬なら……」

「それ、お嬢様が飲みたいって言ってるのか?」

「え?」


 俺が聞くと、ティータがポカンと俺を見た。


「お嬢さんはスキルで眠ってるんだ。それにいつも戦ってるわけじゃない。それなら、いつでも好きな時に起きることができるんじゃないのか?」


 魔物国家だって、四六時中この街に攻め込んでいるわけじゃない。

 それなら、暇な時はあるはずで、その時にはスキルを解除していたっていいはずだ。

 それなのに、どうして起きないんだ?


「それは…」


 俺の質問に答えられなくて、ティータは呆然としている。


「そうなんですよね。おかしいです」


 ミラも賛同する。


「一度、領主様に話を聞いた方がいいのかもしれませんよ?」


 と話がまとまった。

 だけど、このまま領主に会うということにはならなかった。

 魔物が攻めてきたのだ。

 

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