38 ギルドマスターに聞く



 数日後。

 大蛇の解体も無事に終わり、ギルドからお金をもらえた。

 それが結構な金額になった。


「うわっ、すごい」

「おお、金貨の山だよタク君」

「だなぁ」


 冒険者ギルドの個室に案内されて出された金貨の山に、俺たちはびっくりしていた。


「アサシンヴァイパーの鱗と皮は本当に希少なんだ。それがこんなに大量に手に入ったんだ。他に回る前にと領主様が全て買ってくれたよ」


 ギルドマスターが機嫌良く教えてくれた。


 あの鱗の能力って迷彩だよな?

 なんか、特殊部隊が使ってそうな雰囲気がありそう。

 しかも、領主が他に回らないように押さえるって。

 けっこうヤバいものだったのかもしれない。


 鱗と皮もそうだけど、肉とか骨とか毒とかもちゃんと売れた。

 しばらくは蛇肉料理が増えるぞとギルドマスターは笑い、セイナとミラが嬉しそうに笑った。


「そう、それでだな」


 セイナとミラがキャッキャしているのを見て、ギルドマスターが話題を変えた。

 なんか、喋るタイミングを伺っていた感があるな。


「領主様が、君らに会いたがっているんだが、どうする?」

「あっ、はい。それなんですけど……」


 大蛇を持ってきた時にも同じことを言われていたので、こっちも心構えができている。

 そして、その話がやってきたので、俺たちは前から話していたことをギルドマスターに提案した。

 喋ったのはミラだ。


「ええと、ティータさんも連れて行っても問題ないですか?」

「むっ」


 ティータの名前を聞いて、ギルドマスターが難しい顔をした。


「一応、大蛇を倒した時には彼女もいましたし」

「しかしなぁ」


 ギルドマスターが渋る理由はわかる。


 実は、帰ってきてからすぐにティータは薬を完成させ、領主の館にそれを持って行った。

 だけど、門番に追い払われて、話を通すこともできなかったらしい。

 その話をギルドマスターは知っているのだろう。


「……彼女、まだ諦めてないんだろ?」

「ええまぁ」

「ならどうせ、領主様に会ったら、お嬢様の治癒の挑戦をするだろう?」

「ダメなんですか?」

「それなんだよ」


 ギルドマスターは言い難いことを言うべきかどうか悩んでいる様子だった。

 だけどすぐにため息を吐いて覚悟を決めた様子だ。


「あんたらは、どうせここに居着く気のない冒険者だ。知らなければそれでいいと思うんだが、ここで言っとかないと、どうせ領主様にも言っちまうんだろうか言うんだが」


 前置きが長い。


「お嬢様はな。眠ったままでないと困るんだよ」

「え?」

「あの方は特殊なスキルを持っていてな。それは眠っている間にだけ発揮されるんだ。そのスキルでこの街は守られている」

「街の騎士や傭兵はなにをしているんですか?」

「もちろん働いている。だが、魔境に囲まれた街というのは、それだけ過酷なんだ。実際、お前たちが倒したアサシンヴァイパーの異常種みたいなのが出てきたりもする。お嬢様のスキルによる守りだって万全ではない。だが、なくなればさらに困ることになる」

「それなら、そのことをどうしてティータさんは知らないんです?」


 セイナが首を傾げる。

 それに、ティータの話を思い出してみれば、気になる部分もある。

 ティータは、実際に起きているお嬢様に会ったことがある。

 それは、どういうことだ?


「お嬢様のスキルが目覚めたのは、最近のことだ。正確には、病に倒れたと言われるようになった頃。それまでは、普通にされていた。街にも出て、冒険者や傭兵にも気軽に声をかけてくれるような、良い方だったよ」

「スキルに目覚めたのもそうですけど、そのお嬢様が眠ったままにならなければならない理由が、なにかあるんですか?」

「……ああ」


 ミラの問いにギルドマスターが頷く。


「近くに強力な魔物国家が発生してな。奴らを近づけないようにするために、どうしてもお嬢様のスキルが必要なんだ」


 魔物国家。

 そして魔境と魔物の関係。

 それをギルドマスターは説明してくれた。

 魔境には魔物が住む。

 ダンジョンの魔物と魔境の魔物は姿は似ているが、その本質は違う。

 ダンジョンの魔物はダンジョンによって生み出され、倒されれば魔石を残す。

 魔境の魔物は純粋に生き物であり、魔境に生える木から落ちる硬い実を食べる。

 それは魔物にとって高い栄養のあるものらしくて、それを食べるだけで魔物は育つことができる。

 だが同時に、その実を食べることで、魔物は人間に対して強い敵対心を植え付けられているのではないかと考えられているという。


 ギルドマスターがセイナの抱える俺を見た。


「あんたの魔物はダンジョン産のようだが、魔境の魔物を従える魔物使いは、自分の魔物に魔境の実を食べさせないようにしている。魔境の実を食べさせれば食費は浮くが、主人以外の人間に対して勝手に襲いかかったりするし、主人が弱ればあっさりと裏切る。逆に魔境の実を断ち、他の食べ物を与えていれば魔物の凶暴性は鳴りをひそめ、従順になるんだ」


 話が逸れたなとギルドマスターは続きを口にした。

 魔境に住む魔物は人間に対して強い敵対心を持つが、自身の群れ以外の魔物とも戦う。

 そうやって魔物同士で縄張り争いを行い、勢力が強大化したものを魔物国家と呼ぶ。

 そして魔物国家は、近くに人間の集落があれば皆を率いて襲いかかってくる。


「すでに何度か衝突している。奴らも魔物国家ほどになれば知恵を巡らせる。一度の戦いでは決着が付かないし、搦手も使ってくる。厄介な存在だ」

「お嬢様のスキル、魔物国家への牽制としてずっと使われているということですね」

「そういうことだ」


 だから、お嬢様が眠りから覚めることは許されないんだよと、ギルドマスターは締め括った。

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