34 オーク……かと思いきや



 あれから何度かオークに襲われ、撃退した。

 距離を置いて発見できたら【衝撃邪眼】で狙撃して、近くに来られたらミラの剣技が冴え渡る。

 大きな問題が起きることもなく、魔境を進んでいく。


「やることない」


 結果、セイナは俺を抱えているか、ミラにできた軽傷を治す程度のことしかできていない。


「俺が戦えば、ちゃんと成果が反映してるだろ」


 魔物使いなんだから、俺が得た成果を経験値的に吸収できる。

 実際、セイナの【成長補正】に+1が付いたし、俺の謎スキルも【X%25】まで溜まっている。

 やっぱりオークって強いんだろうな。


「でも、そういうのってあんまりパーティって感じがしないし」

「なら、次はセイナさんが戦いますか?」


 とミラが言った。


「セイナさん、こっちも強いじゃないですか!」


 と、拳をグッと握る。

 セイナは【拳闘補正】を持っているからな。

 能力値も高いので、ぶっちゃけるとまぁ、ミラより強いと思う。


「ええ。だって、私、回復職だから」

「うん、じゃあ、出番が来るまで大人しくしていような」

「うう……」


 納得していないという感じで俺を上下に振る。

 おいやめろ、酔うから。


「そういえば……」


 揺らされないためには話題を変えるしかない。

 興味もあったので、ティータに話を振った。


「その領主の娘、お嬢様? なんでそんなに必死になって助けないといけないんだ?」


 不治の病と聞けば同情もしてしまうが、そんな彼女を、しかも一度失敗したのになお薬を作るために努力するのはなんのためなのか?


 領主の娘の人望?

 それとも薬師としての矜持?


「ええと……ですね」


 ティータは両手の指をクネクネと合わせながら、言いにくそうにしている。

 照れている?

 なんでだよ。


「まずはですね、お嬢様……エメルネア様はとても素晴らしい方で」


 ここで、領主の娘の名前がエメルネアだと判明した。


「エメルネア様は魔物によく襲われるこの街で、自ら救護活動を行なわれたり、騎士や兵士、傭兵の前に出て料理を振る舞ったりなど、本当に街の人に人気のある方なんです」

「あんたは?」

「え?」

「あんたは、どうだったんだ?」

「私は、私も尊敬しています。だから、エメルネア様を助けたかった。私の、薬で」

「ふうん」


 私の薬ね。

 なんか強いこだわりがありそう。

 やっぱり薬師としての矜持とか名誉欲とか?


 まぁ、俺としてはどっちでもいいんだけど。


「あ、あそこ、オークの集団がいますね」


 考えているとミラがそう言って指差した。

 そちらを見ると、本当にオークの集団がいた。

 いままでよりも多い。


「もしかして、これから集落を作るつもりなんでしょうか?」

「さあ?」


 俺は魔物の集落の作り方なんて知らないので、わからない。


「そんなわけないです」


 と言ったのは、ティータだ。


「あれはオークがどこかからか逃げてきたってことではないかと。だったら、なにかがオークを狙って……」


 そう言ったところで、いきなり、オークの集団が消えた。

 その周りの地面がザバリと持ち上がり、ぶちまけられる。

 スコップで攫い損ねた土が落ちた時みたいだと思った。


「あ、ああああ!」


 ティータが叫ぶ。


「そこ、荒らしちゃダメぇぇっ!」


 と、悲痛な声が魔境に響いた。

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