33 秘薬探索



「私が探している薬草は、ポポリ草と言います」


 門番にまで連絡が行っていなかったのか、街を出るのを止められなかった。


「なんか可愛い名前ですね」

「ポポリさんが見つけたとかだったりしてな」

「はい、そうですよ」


 セイナの感想に俺が適当な返事をしていると、ティータに肯定されてしまった。

 ほんとにポポリさんかよ。


「とはいえ、私が古本屋で見つけたポポリさんの手記に書かれていただけで、公に知られているわけではないんですけど」

「信用できるのかよ、その手記」

「はい。私の教科書ですから」

「いいのかそれ?」


 誰かわからん人の手記で薬師を名乗るって……まぁこの世界、別に資格試験とかもないんだろうしな。

 薬が作れてたらそれでいいのか。

 いいの……か?


 なにか間違えてないかと、妙にドキドキしながらティータについていき、魔境に入っていく。


「それで、そのポポリ草というものから特殊な方法で抽出した液体は、薬の効果を強化するという効能があるんです。以前に作った薬にこれを混ぜることができれば、きっとお嬢様の病気も治せます!」


 そう言って、あの変なフラスコを握りしめている。

 あれが抽出に必要なのか?


「ポポリ草は採取してすぐに抽出しないと効能が固定化しないんです。だからその場で作業ができないといけないんですが……」


 魔境の中でそんな呑気なことをしていたら、魔物が近寄ってくるに決まっている。


「なるほど、そこでボクたちの出番ですね」

「お任せします!」

「強い魔物が来なかったらいいな」


 この間のオークぐらいならなんとかなるとわかったけど、あれより強いのが出ないとも限らない。


「そうしたら、きっと美味しいですよ!」

「美味しい……」


 明るく言い切るミラに反応して、セイナがジュルリしそうな顔になっている。

 一瞬で魔物食に適応したな。

 ティータの案内で魔境に入り込み、奥へと進んでいく。


「あっ」

「えっ?」

「がうっ?」


 そんな感じでオークの集団と出会ってしまった。

 問答無用の【衝撃邪眼】がオークたちを襲い、ミラが嬉々として襲いかかる。


「ていうか、ミラもなんか印象変わったよな」


 あっさりと戦闘が終わったところで、俺は言った。


「出会った時はなんかオドオドしてたし、ゴブリンに蹴られてたし」

「あれは罠にかかったんだから仕方ないんですよ!」


 あの時のことを思い出したのか、ミラが顔を真っ赤にした。


「あの時は、ボクも冒険者になろうと気を張っていたし、訓練ばかりで実戦を経験したことがなかったから、わからなかったんです!」

「なるほどなぁ」


 ミラって結構強いのに、妙な初心者感があるのはそういう理由か。


「これ、持って帰れないねぇ」


 セイナがミラの怪我を治したところで、勿体無いと呟く。

 とはいえ、まだこれから魔境の奥に入るのに、オークを引きずって歩くわけにはいかない。

 解体したとしても、結構な量になるだろうし。

 そもそも解体するための道具も持ってないしな。

 この前はミラの剣を使ったが、戦闘用の剣と解体用の刃物を一緒にするわけにもいかないだろう。

 なにかあったら大変だし。


「噂だと、ダンジョンを十階層まで攻略すると、高い確率でマジックポーチという物が手に入るそうですよ」

「ああ」


 ミラの言葉で、そうだそれがあったと思い出した。

 うちのダンジョンでもあるな、マジックポーチ。

 なんか、お約束らしい。

 ダンジョンマスター同士で連絡とか取り合ってるわけでもないはずなのに、なんでそんなお約束ができあがっているのかは謎だ。


「便利ですよね、マジックポーチ。私も欲しいです!」

「マジックポーチ?」


 セイナだけが話が通じなくて首を傾げている。


「ええと、これぐらいの大きさの腰とかに巻いて固定するポーチで、中の空間が魔法で拡大されているんですよ」

「なにそれ欲しい!」


 そして食いついた。


「わかった。次はダンジョンのある街に行こう」

「うん!」


 今回が勢いに任せての行動だったからな。

 次はちゃんと、地図とか見て行き先を決めよう。

 そんな話をしながら進んでいると、またオークに襲われた。

 無事に撃退。


「もしかして、この近くにオークの集落とかあるんじゃないか?」

「あるかもしれないですね」

「こっちにいかないとダメなのか?」

「以前に見つけたポポリ草の群生地はこっちなんです」


 ティータの言う通りに進むしかないんだけど、これってもうオークとの集団戦は確定かな?


 

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