32 嫌われを突き抜けろ



「で、なにをやらかしたんだ?」


 青空フードコートから逃げた俺たちは、ティータの案内で彼女の家兼作業場に到着した。

 薬を調合する空間は清潔感があるのだけれど、そこに辿り着くまでの生活空間はごちゃっとしている。

 興味のあることだけちゃんとするタイプかな?


「ええとですね……」


 俺たちをリビングに放置して、自分は隣の作業空間で道具棚を漁っている。


「あっ、よかった。まだあった」


 そう言って、奇妙な形をしたフラスコみたいなのを持ってきた。

 普通のフラスコが二本、ぐるぐると回転したガラス管で繋がっている。


「これで、まだ薬が作れます」

「で、なにやらかしたんだ?」


 なんか話が別の方向に流れそうな予感がしたので、機先を制す。


「え? あ、ああ……ええと、実はですね。お嬢様、領主の娘さんの治療に、以前、私も名乗りをあげたんですよ」

「うん」

「他の方は効果がなかっただけだったんですけど、私の処方した薬の時だけ、高熱を発してしまって……一時期、危険な状態となってしまったんです」

「……ティータはヤブ薬師だった?」

「や、ヤブ? なんかわかりませんけど、悪く言われている気がします」


 ティータがプリプリ怒る。


「それに、あの症状が出たことで、私は間違えていないって確信したんです!」

「ほう?」

「あの時、病に支配されていたお嬢様の体は、自分の力で抵抗しようとして発熱されたんです。ただ、薬の力が足りなかった。だから、今度はもっと強い抽出法で薬草から成分を抽出できれば……」

「それで、魔境に一人でいたんですか?」


 と、ミラが尋ねる。

 街に来てから反応からして、お嬢様の件で街では嫌われていたんだな。

 だから、魔境に薬草を探しにいくのにも護衛を連れて行けなかったから、一人で行くしかなかったってことか。


「なるほど」


 セイナも気付いたようだ。


「ねぇねぇタク君」


 と、セイナが俺に耳打ちしてくる。


「私の回復魔法だとダメかな?」

「んん? お前が覚えてるのは冒険者が使える簡単なのだからな。でも……」


 病気を治すのは【治療】の魔法だな。

 誰でも使える店売りの魔法だから、使うだけだとそのお嬢様とやらには通じないだろうけど。


「魔力ゴリ押しでなんとかなるかも?」

「試してみようか?」

「んんまぁ……ティータの努力が通じなかったらでいいんじゃないか?」

「そうだね」

「ていうか、でしゃばったらお前、今度こそ聖女認定だぞ?」

「それはやだぁ」


 不治の病の領主の娘だぞ?

 そんなもん治したら名声がどんだけ広まるやら。

 ティータが挫けていないみたいだし、俺たちも別にそのお嬢様のことを知っているわけでもないし、街に来たばかりで状況もなにもわからないし。


「冒険者として、依頼された仕事をしただけです、の立場を守っておこう」

「んん、そうだね」


 大事なのは自分たちの立場だ。

 どっちにしても、なんか色々問題がありそうな気がするけどな。

 例えば……。


「さてじゃあ……魔境に行くならさっさと動こうぜ」

「え?」

「騎士隊長をぶん投げたんだぞ? 暴行罪とかで捕まる前に街を出た方がいいんじゃないか?」

「ふあっ!」


 家に逃げ込んだからなかったことになるとでも思ったのか?


「いいいい、急ぎましょう!」


 慌てて出かける支度をして、俺たち家を出た。

 まぁ、無事に街を出られたとしても、その後どう戻るかっていう問題もあるんだけどな。

 それはいま、言わなくてもいいか。

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