31 嫌われ理由



 鎧の男がティータを睨んでいる。

 傭兵……よりは身なりがいい気がする。

 とはいえ区別が付かないし、俺を見ていないので黙っている。


「いまだにこの街にいるとはな」

「うっ」


 じろりと睨まれて、ティータが萎縮している。


「お前は領主様の温情で牢に入っていないのだという事を忘れるな」

「わ、わかっています」

「それなら、どうしてまだこの街にいる?」

「それは……」

「もう誰もお前の薬なんて信用しない。さっさとこの街から出て行け」

「ま、まだ!」

「なに?」


 鎧の男の圧に負けて俯いていたティータが顔を上げた。


「まだ、治す手段はあります!」

「なに?」

「お嬢様の症状に効く薬は必ず作れます! だから……」

「お前の作る薬をお嬢様に飲ませるわけがないだろう!」

「……よくわかんないんだけどさ」

「ぬ?」


 俺の頭上でそんなやりとりをされていたので、たまらずに口を挟んでしまった。


「捕まってないし追い出されてもいないなら、ティータは犯罪者じゃないんだろ? それならお前が偉そうに言う理由もないんじゃないか?」

「魔物が、喋った?」

「それとも、お前は領主の決定に口出せるような身分なのか?」

「……ふん、魔物に言ってもわからんだろうが、私はこの街の騎士隊長だ」

「つまり、領主の部下だろ? なんで領主の命令にケチつけてんだ?」

「なっ⁉︎」


 もしかして、魔物だからってバカにしてるのかな?


「ああ、もしかして、領主に逆らう気があったりして?」

「貴様!」


 一発で激昂した。

 沸点低すぎないか?

 剣を抜いて、俺に振り下ろす。

 遅いな、俺でも対処できそうだけど……あっ、街中で魔物の俺が手を出したらやばいのか。

 仕方ないので避ける。

 テーブルが真っ二つになり、ティータが驚いてイスから転げ落ちた。

 俺はスタッと着地。


「魔物が! 死ね!」


 騎士隊長が殺気だって俺に向かってくる。


「タク君になにしてるんですか?」


 ここまで怒るとは思わなかったなぁと反省していると、ぼそっと怖い声が聞こえた。

 騎士隊長の後ろにセイナがいる。

 いつの間に?

 見回してみると、少し離れたところにミラがいて、驚いた顔をしている。


「タク君に……ちょっかい出さないでください!」


 セイナが騎士隊長の鎧の後ろ襟みたいな部分を掴み、そのまま野球の全力投球みたいに投げた。

 それは……やばい。

 前にも言ったがセイナの体は上位竜種並なんだ。

 オーク三体を引きずるのだって楽勝だし、鎧を着た成人男性を放り投げる事だってできる。


 騎士隊長はちょっと放物線を描きながら、そこにあった屋台にぶつかった。

 なんかスープを売っていた屋台だったようだ。


「ぎゃあっ!」


 熱いスープを浴びて、気絶する暇もなく悲鳴を上げている。


「……これ、やばいかな?」

「やばいですよう」


 ティータが青い顔をしている。

 領主じゃないけど、騎士隊長だもんな。

 怪我をさせたのはやばいかも。


「逃げるべ」

「逃げましょう。こっちです」


 というわけで、離れているミラを手招きし、興奮しているセイナを宥め、俺たちはその場から逃げた。

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