28 魔境のメガネ
悲鳴に引っ張られて魔境の中に入っていく。
まぁ俺は抱えられているだけで、実際に走っているのはセイナとミラだ。
どっちもお人好しだな。
「あ、いた」
木々の隙間を避けて走っていると、すぐにその姿が見えた。
「ひえええ……」
「すげ、あんな悲鳴を上げる奴って本当にいたんだ」
思わず感心してしまった。
逃げているのは、女か?
分厚そうなメガネをした女性だ。
必死に逃げていると、そんな声も出るのかもしれない。
逃げている相手は、これはもしかして……オークか。
オークに追いかけられる女性。
R18的な展開が起こりそう……いや、エルフでも女騎士でもないか。
「タク君、そんなことは言っちゃいけないよ」
俺の雑念はセイナには届いていないようだ。
「はいよ。じゃあ、先制いくぞ」
「はい。その後に行きます」
ミラに声をかけてから【衝撃邪眼】を撃つ。
ゾンビ退治の件で、声掛けは大事だなと気付かされたので言ってみたが、ミラはすぐに対応してくれたようだ。
メガネ女性に一番近かったオークに【衝撃邪眼】が刺さり、吹っ飛んだ。
近くの木にぶつかり、そのまま気絶か? 動かなくなった。
オークは全部で三体。
残り二体にミラが接近する。
「央傘流真剣術……【流れ鎌鼬】!」
自分の血を剣に吸わせてから行うミラの特殊な剣術が放たれる。
剣身に付着した彼女の血の量よりもはるかに大量の鮮血が彼女の斬撃に乗り、オークの首を刈る。
「続いて……【血刃奔】!」
首を刈られたオークが倒れ、ミラと三体目のオークの間に射線が開けると、彼女の剣から放たれた赤い斬撃が飛び、三体目も倒した。
三体目が倒れてからも、油断せずにしばらく周囲の様子を確認した。
どうやら大丈夫っぽい。
「やりました! オークも倒せました!」
剣道の残心みたいなのを解いたミラは、一気に表情を緩めて嬉しそうに飛び跳ねる。
「それより、手は大丈夫なの?」
セイナの心配は当然だ。
自分の剣で手を切るというのは見てるこっちも痛くなる。
それでも、前に見た時は心配をしなかった気がする。
セイナも俺も、それだけ余裕ができたきたってことかな。
「あっ、大丈夫ですよ」
ほらほら〜と見せてくた手には傷一つなかった。
「ボクの剣は特別で、血だけを抜き出すんです」
「そうなの? 大丈夫なの?」
「はい」
いつでも回復魔法を使える準備をして心配するセイナは、ミラの手がなんともないことを確認してから、放心状態で座り込んでいるメガネ女性に駆け寄った。
「あの、大丈夫ですか?」
「……はっ!」
ちょっと間を置いてから、メガネ女性は我に返り、辺りを見まわし、オークの死体を確認し、そして俺たちを見てから、骨が抜けたように崩れ落ちた。
「た、たすかった〜〜」
「お怪我はないですか?」
「だ、大丈夫〜〜ああっ!」
「えっ⁉︎」
メガネ女性は溶けるよう地面に転がっていたかと思うと、体を起こして自分の体を探り出した。
「ああうう……せっかく採取した薬草がぁぁぁぁぁぁぁ」
そして再び地面に転がる。
今度は……フテ寝か?
「あの、採取のお手伝いしましょうか?」
「ダメなの。普通の薬草じゃないのう。特別な採取道具がないと採れないのよ」
「はぁ」
「ああ、あの薬草がないと薬が作れないのにぃぃぃぃ」
「逃げた方向を覚えてるなら探しに行く事もできるんじゃないですか?」
メガネ女性の心配にミラも加わる。
お人好しコンビだ。
「……無理」
しばらく木々の中に視線を彷徨わせてから、メガネ女性はそう言った。
「なら、取りあえず街に戻るしかないんじゃないか?」
「うう、そうねぇ」
俺の提案に答えてから、しばらくして、ばっと俺を見た。
「魔物が喋った⁉︎」
「喋って悪いか?」
俺が答えると、ぐりぐりメガネがずり落ちそうなぐらいに驚いた。
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