22 儀式



「なんだこりゃあ」




 誰かがそう言った。


 誰なのかわからないけれど、これを見たほとんどの人のセリフだと思う。


 街には悲鳴が溢れ、空には幽霊が飛び交っていた。




 たぶん、幽霊だと思う。


 古びてくすんだ白いカーテンを被ったなにか、みたいなビジュアルのものが右へ左へと好き勝手に飛び回っている。




「幽霊?」


「ゴースト?」


「ああ、これって……誰か悪さしてたな」


「ゾンビの大量発生もそれかぁ」


「うわ、なんだこりゃあ」


「ええ……勘弁して」




 なんか、わかってる人の会話が混ざってる気がしたけれど、見回しても誰が発したのかはわからなかった。


 とにかく、騎士にしろ冒険者にしろ、ゾンビ退治という重労働で疲れ切ったところでこの事態である。


 その場に立ち尽くして動けなかった。




「……とにかく、状況の確認をせねば!」




 わずかな沈黙の後、騎士団長がそう言った。




「騎士団! まずは状況確認だ! 行くぞ!」


「「「おお!」」」




 騎士団長も騎士たちも自棄になったように声を上げ、街の奥へと向かっていく。




「俺たちはどうする?」


「ギルド行く?」


「行ったらまた強制依頼が待ってるぞ」


「うえぇぇ……」




 冒険者たちは、そんな感じで士気が上がらない。


 しかしそれも仕方がない。


 あんな重労働の後、しかもこれで休めると思ったところでこれだ。


 むりむり。




「よし!」




 だけど、体力無尽蔵なセイナは違う。




「タク君! どうしたらいいかな?」




 そして俺に聞く。




「そうだなぁ……」




 そしてまぁ……俺も少しは体力に余裕がある。


 チリついていた【ガイド】が、俺に道筋を教える。




「とりあえず、あっちだな」


「わかった」


「ま、待ってください!」




 ミラも追いかけてくる。




「あれ、こっち……ギルドに行かないんですか?」


「ああ、たぶん。ギルドに行ってもどうにもならんかな」




 というか、大勢にセイナの活躍を見られるべきではない気がする。


 後、俺も。




「なにが起こってるか、タクトさんはわかってるんですか?」


「いや、ぜんぜん」


「ええ!」




 だから、俺の【ガイド】は解決の道筋を教えてくれるだけで、その背景なんかはまったくわからないんだよ。




「大丈夫だよ。ミラちゃん」




 走りながらなのに、セイナは余裕で喋る。




「昔から、タク君に任せておけば大丈夫だったから」


「んんん?」




 そんなに信用されるようなことをしたか?




「あれは幼稚園の頃、神社で遊んでいたら迷子になって……」


「ああ、あったあった」




 うっかり山の中に入りこんで迷子になった……ってことになってるな。


 けどあれ、実は神社(祖父管理)にあるダンジョン用のリソース倉庫にこいつが転がり込んでしまって、慌ててそこから助け出したっていうのが真相だ。




 いやぁ……幼稚園児ながら焦ったね。


 あそこに入ったなんてバレたら親父たちにどれだけ怒られるか。


 ちょうど、山岳地形用の素材が転がっている区画だったから、『山に迷い込んだ』でごまかせたんだったか。


 幼稚園児ながら、超頭フル回転させたんだな。当時の俺。




「あの頃から、私はタク君を信じているんだから」


「……それはどうも」




 これ、真実を言うべきなのか?


 思わぬ方向から古傷に塩を塗りこまれたような気分になりながら、俺たちは治療院に辿り着いた。


 そこから、裏庭へ。




「たった一日留守にしただけで、なんでこんなことになるんだよ」




 冒険者の中で、なんか事情が分かってそうな声がしていた。


 もしかしたら魔法的な見地なら、答えはすぐに出てくるものなのかもしれない。


 だけど、俺からしたら、供物は小魚だった。




「なぁ?」




 俺は、ミーシャに話しかけた。




「あ、おかえり!」




 壊れた石積みの前にいたミーシャは、振り返ると闇に満ちた目で笑った。










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