20 目を離す



【ガイド】はミーシャを中心になにか凄いことが起きそうな予感を伝えてくる。


 だが、その詳細はわからない。




【ガイド】はあくまでも、俺が目的とした物事に関して、勝利の筋道を見せてくれるスキルだ。


 短期的な未来予知というか運命先導というか、そんな能力だ。


 チートではあるが、万能というわけではない。


 関りがあるのかないのかよくわからない状態で、しかもすぐになにかが置きそうでもない場合には役に立たない。


 だが、目を離してはいけないのではないか?


 そんな気がする。




 だが、そういうわけにもいかなくなった。




「冒険者の強制呼び出し?」


「はい」




 その日、治療院から戻って来るとミラが険しい顔でそんなことを言った。


 冒険者の強制呼び出しとは、大きな問題があったときに発動される。


 冒険者ギルドに登録した冒険者は、基本的にこれを無視することはできない。


 特段の理由なくこれを無視すれば、最悪犯罪者となるほどのペナルティが課される……と、ミラが説明してくれた。


 そして、それぐらい強い権限のある命令が発されるということは……。




「つまり、緊急事態です」


「……なにがあったんですか?」


「ゾンビです」




 ミラの説明は続く。


 ゾンビというのはまさしく生きた死体だ。


 死霊魔法によって作られることもあれば、環境次第では自然発生する場合もある。


 まさしく死体が動くこともあれば、泥や枯れ木など土中に埋まっている物が絡み合って人型を形成することもある。


 ゾンビの発生や成り立ちなんかを真面目に考察すると、魔法学者と魔物学者がバカみたいに興奮していろんな例を挙げるが、実利に生きる冒険者にとっては、死体発生と場所発生の二つで類別されるのみだ。


 ちなみにどちらも感染などはしない。


 共通しているのは、生きた人間への敵対心。


 これが厄介だ。




「今回は後者です」




 アスビルの近くには歴史に残るような古戦場があるらしく、


 そこから定期的にゾンビが発生するので、この街で発生する数少ない魔物駆除依頼の一つとなる。


 街の騎士たちも定期的に駆除を行っているそうだが、それでも見落としが発生する場合がある。




 同じことを繰り返せしていれば油断も起こる。


 騎士の巡回と、冒険者の定期依頼。


 しかし、その油断もダブルチェックのシステムができていることで、問題となったことはなかった。


 なので、今回のことはかなり異例である、ということになる。


 なにより、見つけてきたのは定期巡回の騎士たちだ。




 で、なにが起きているかといえばゾンビの大発生だ。


 その古戦場からゾンビが大発生し、この街に向かってきているということらしい。




「んじゃあ、俺たちもそのゾンビと戦わないといけないのか」


「はい」




 そういうことになったので、治療院での仕事は中止となった。




「ゾンビは強いのか?」


「一体一体は強くないです。ですが、数が多いので……」




 ゾンビの攻撃は爪によるひっかきか噛みつき。


 ゾンビが感染する恐れはないけれど、不潔だから傷を放置しておけば破傷風なんかの病気になる。


 力も強くない。


 とはいえ数が多い。


 数の圧力で押し倒されたり、伸し掛かられたり、踏みつけられたりしたときに重傷を負う可能性がある。




 それらの説明をミラから受け、さらに集まった冒険者ギルドで受け、作戦を聞かされる。


 冒険者のギルドで演説をしたのは女性のギルドマスターだった。


 さらに移動し、アスビル治安騎士団の団長の演説と作戦wの利かされてから移動する。




 ゾンビたちの移動はある程度の法則がある。


 人間の気配が強いところに向かうようになっている。


 例の古戦場の周辺は村を作らないようにしているので、ゾンビが発生したら自然とアスビルに向かってくるように調整されているそうだ。


 なので、群れで街に向かってやって来るゾンビを、今度は騎士と冒険者の集団で引き寄せてモグラ叩き式に倒していく……というのが作戦のようだ。




 緊急とミラが言うからどんなものかと思ったけれど、集まって移動している間に緊張感もあまりなかった。




「おっ、新人、こういうのは初めてか?」


「ここで冒険者をやるんなら慣れとけ。ゾンビ叩きの方法をな」




 みたいな会話が聞こえて来た。


 深刻そうに伝えてきたのは、この街が初心者なミラだったからか。


 それに気付いたミラの顔から深刻さが消え、どんどん赤くなっていく。




「な~んだ」


「いやいや! 普通、もっと深刻だと思うでしょ!」


「まっ、危なくないのはいいことだよな」


「うううう……!」




 慰めてみたけれど、彼女の赤面はなかなか収まらなかった。






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