19 供物は魚



 ミーシャに引っ張られて移動した先は街から外に出た川だった。


 街の人たちが気軽に外に出るための通用口のような門があり、大きな荷物を抱えていなければここから出入りすることが可能らしい。


 ミーシャとその保護者(&ペット)という体裁で俺たちはその門を抜け、近くを流れていた川に向かった。




「ここで魚が採れるのか?」


「採れるもん!」




 川はけっこう浅く、見渡す限りは歩いて渡れそうな感じだ。


 ただ川幅は広いから、考えなしに歩いていたら深みにはまってしまうかもしれない。


 ミーシャは網と木製の桶を手に浅瀬部分でバシャバシャとやっている。


 あれで捕まえられるか?




「懐かしい。私たちも前にしたことあるよね」


「ん?」




 あったっけ?


 いや、思い出した。




「ああ、しじみ採りしたか」


「そうそう」




 あったなぁ。


 市内の一級河川でのことだろう。


 夏休みにプールに泳ぎに行くノリで親父が連れってくれるから、俺たち兄弟はよくそこで遊びながらしじみ採りしまくってたな。


 その時に、何回かセイナも連れてった。


 うちの近所って同学年がいなくて、子供会も俺とセイナだけだったからな。


 セイナの両親に連れてってもらったこともあるし、うちの家族がセイナを連れ出したこともある。




「ちょっと、手伝って!」




 思い出話をしていると、ミーシャに怒られてしまった。




「手伝えって、なにしろって言うんだよ」


「あれを捕まえるの!」




 ミーシャを指差す方を見れば、メダカみたいなサイズの魚が群れている。


 彼女の網を見る。


 網の目が大きい。


 あれだとすぐに逃げ出してしまう。




「仕方ないな」




 成功するかどうかわからないが、ちょっと離れたところを狙って……。




【衝撃邪眼】で水面を叩く。




「わあっ!」




 水柱が上がって、しばらくすると、小魚の群れがぷかりと浮かんだ。


 爆弾で漁をするみたいなのを、なにかで見たか聞いたかしていたから試してみたけど、うまくいったな。




「死んだ?」


「たぶん、まだ生きてる。桶に入れなよ」


「うん!」




 ミーシャは網を放って、桶に小魚を入れていく。




「ありがとう。あなたも食べる」


「いやぁ、生魚はちょっと」


「鳥みたいな口なのに、変なの」


「おっしゃる通り」




 とにかく、供物は手に入れた。


 桶を抱えて治療院に戻る。


 昼食にホットドッグみたいなのを屋台で買って食べた。


 俺たちは三人で並んでそれを食べて、セイナは治療院に戻り、俺とミーシャは裏庭に戻った。




「それで、これからどうするんだ?」


「こうする!」




 ミーシャは石積みの前に穴を掘り、そこに桶の中身を全て流しいれた。


 水は穴から少し溢れ、小魚はそこに残る。


 生け簀?




「ん?」




 なんかいま、【ガイド】がチリっとした。


 んん……まだよくわからないな。




 見ている間に穴にたまった水は地面に吸い取られ、小魚が穴の中を弱々しく跳ねる。


 いまさらながら、惨い光景かもしれないと思った。




「あんまり……こういうやり方は気分が良くないな」


「大丈夫だよ。ちゃんと神様が食べるから」


「まぁ、供物だからな」




 子供の遊びだ。


 俺だって小さい頃に捕まえた虫や魚や蛙にひどいことをしたことがある。


 だから、ミーシャがやっていることを、ことさらに責める気はなかった。


 小魚だ。


 これが犬や猫なら止めていたかもしれないけれど、小魚だと止めにくい。


 命の差別問題だと思いつつ、ミーシャを見る。




「うん、ちゃんと食べるよ」




 そう言ってこっちを見て笑うミーシャの目と口から、闇が零れた気がした。


 気のせいか?


 いや……【ガイド】はチリつくばかりだ。










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