18 神と信仰



「あなた……なに?」




 女の子は振り返った俺を見て首を傾げる。


 魔物を知らないのか?


 さて、喋って良いものなのかどうか。悩むな。


 セイナがいれば魔物と魔物使いの関係だとわかりやすく説明できるんだけどな。


 さっさとこの場を去るのが賢明かな?




「もしかして、神様?」




 なんでそうなる?




「やった! ついに成功したんだ!」




 嬉しそうに叫び、女の子は積み石の前にその辺りに生えていたと思われる花を供えた。


 もしかして、祠とお地蔵とか、そういうマインド?


 ううん、しかし……このまま勘違いさせているといろいろとめんどうな気がする。




「なにをしているんだ?」


「わっ!」




 話しかけたら、やっぱり驚かれた。




「神様が、喋った!」


「神様じゃないけどな」


「じゃあ、なに?」


「従魔だ」


「じゅうま?」


「魔物だよ。後ろの病院に魔物使いがいる」


「魔物って喋るんだ?」


「俺が特別なんだよ」


「ふうん。……なんだつまんない」


「なんで神様がいるんだ?」


「そんなの、あんたに関係ない」




 女の子は俺への興味を失い、詰んだ石の周りを整え、なにかを祈っている。




「本格的だな?」


「それはそうよ。本気で神様に来て欲しいから」


「そうかい」




 教えてくれる気がなさそうなので放っておく。


 とはいえ俺も他に時間を潰す場所がないからここにいるしかない。


 ……微妙に気まずいな。




「ねぇ」


「なんだよ」




 しかたないので放っておいたら女の子の方が話しかけて来た。




「あなた、お名前あるの?」


「そっちは?」


「聞いたのはこっち!」


「相手に名前を尋ねる時は、自分から言うもんだよ」


「むう……生意気」


「それで?」


「ミーシャよ」


「俺はタクトだ」


「タクト、変な名前」


「他人の名前を悪く言うのは感心しないね」


「うっ、ごめん」


「素直ないい子だな」


「でしょうっ! ミーシャはいい子なんだよ!」




 うーん、切り替えの早い子だ。




「それで、なんの用なんだよ?」


「あのね、神様のお供えに生き物が欲しいの。捕まえるの手伝って!」




 おおう、神は生贄を望んでおられる。




「神様って、あの石積みにいるのか?」


「うん!」


「ていうか、なんで生贄?」


「イケニエ?」


「生き物を望んでいるってわかるんだ?」


「だって、ミーシャには聞こえるもの」


「聞こえる?」


「うん、神様の声が聞こえるんだよ。だから、手伝って!」


「ああ……それなんだけどな。俺は魔物使いと一緒じゃないと人前をうろつけないんだよ」


「ええ!」


「そういうわけで、悪いけどな……」


「じゃあ、その魔物使いさんにお願いに行く!」


「おおっと……」




 意外に……いや、意外にでもないが、行動力があるな。




「誰?」


「セイナっていうけど……」


「待ってて!」




 ミーシャはダッシュで治療院に入っていった。




「いいって!」




 そう言って戻ってきた時にはセイナの手を引っ張っていた。




「大丈夫か?」


「昼休憩の間だけだよ」




 ミーシャに手を引っ張られているセイナは、まんざらでもない顔をしている。




「それで、生き物ってなにを捕まえるんだ?」


「魚!」






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