14 灰髪のジェイン
事後報告となってしまったことをミラに詫びると、彼女は驚いた顔で固まってしまった。
「え? もうボクたち、解散なんですか?」
「違うよう」
すごい勘違いをして絶望した顔になっているミラに、セイナは慌てた。
「俺たちには旅をする理由がある。その理由にあの連中は関係していそうなんだ」
「理由? もしかして……仇討ちとか?」
「いや、あの人たちが悪者だとかいうことじゃないから」
俺が言うと、ミラは変な風に曲解する。
とはいえ詳しい説明もやりにくい。
だけど……このまま付き合わせたら、いずれその場面を目撃することになる。
悩ましいところだ。
「向こうから頼まれているのも一回限りだ。なにをするのかは聞いていないが、回復役がいるんだから戦いになるんだろう。ミラ、一応向こうにはお前が付いてくることの同意を得ているが、嫌なら来なくてもいいぞ」
「いや、付いていきます」
「そうか?」
「はい! お二人に付いていると、修行になりそうな気がするんです!」
「修行かぁ」
前にゴブリン退治をした時にも思ったけど、ミラって実はけっこう強くない?
たぶんだけど、新米冒険者の強さではないと思うんだよなぁ。
でも、自分に自信がない。
それが、すごくアンバランスだ。
彼女の周りって、きっとすごく強い人たちしかいなかったんだろうな。
「それで、その……ジェインさんのパーティはなにと戦う気なんですか?」
「さあ?」
「さあって……」
セイナが首を傾げたので、ミラが呆れた。
たしかに考えなしに見えるかもしれない。
だが……その通りなんだが……俺たちには俺たちの事情がある。
俺の【ガイド】の導きがある。
決して、悪いことにはならない……と、いいなぁ。
「とはいえ、危なそうではあるんで、いざとなったら俺たちだけで逃げるつもりでいろよ」
「え⁉」
俺の言葉に、セイナがひどく驚いた顔をした。
「そんな、それは冷たすぎない?」
「あのなぁ、俺たちは危ないことをしてるんだからな。戦ってるんだぞ?」
セイナの回復役としての実力を求めていることからしても、ジェインたちがやろうとしていることは危険なんだ。
俺たちは、基礎能力は高めかもしれないが、こちらの世界の常識にも慣れていないような初心者だ。
特に、セイナはそうだ。
その上で、ミラだって強いけれど、新米冒険者の雰囲気がある。
油断していい状況では、決してない。
「油断したら死ぬかもしれないからな」
「だから、そのための私だからね。回復を覚えたんだから」
「だから……」
「がんばるっ!」
「おおう」
変な方向にやる気を出している。
その善人さがセイナの良いところではあるんだが……頼むからもう少し話が通じて欲しい。
護衛依頼は、その後、何事もなく終了した。
森か山かわからないぐらいの木々の間を抜けて、周囲に広い畑が広がるようになってくると、商人や護衛たちに安堵が窺えるようになり、そしてそのまま街を守る大きな壁が見えるようになった。
次の街の名前はアスビルといった。
ダンジョンなどはないけれど、周りの豊かな畑からもわかるように、穀倉地帯となっており、また周辺地域への物流の中継地点として、商人たちが集まったりしているようだ。
護衛依頼が終わると、俺たちは街の冒険者ギルドで成功報酬をもらい、あらためてジェイルたちのパーティと合流した。
「ここにいるってことは、手伝ってくれるって考えてもいいのかい?」
冒険者ギルドに併設された食堂で、俺たちは一緒のテーブルに着いた。
「一応、どれぐらい危険なのか、情報をもらってもいいか?」
「驚いた。その魔物は喋るのかい?」
俺が質問したことで、ジェイルたちがざわついた。
「タク君はすごいんですよ」
そんな彼らの様子に、俺を抱えたセイナはニコニコと応じる。
「……まぁ、従魔も、魔物使いの回復役なんてのも、初めて見たからね。驚いても仕方ないんだろうけどさ」
「こいつは人が良すぎるんで俺が交渉する。慣れてくれ」
「ははっ、主人想いのお節介さんか」
「そういうことだ」
「ふふっ、まぁいいさ。だけどその前に、自己紹介をしておこうじゃないか」
「それもそうだ」
というわけで、俺たちは名乗り合った。
ジェインのパーティは四人。
魔法使いの彼女以外は皆男で、パーティでの役割は斥候、盾役戦士、殴り役戦士という感じで、回復役がいない。
前までいた回復役は、ルータンのダンジョンで活動している間だけという約束で一緒だったらしく、ジェインが街を移動するという話になったところで別れたらしい。
「魔法屋で売っているから使えはするけどね。専門って感じじゃないんだ。見た感じ、回復だけならセイナの方がアタシより上手いみたいだからね」
「がんばります!」
それは【回復補正】のスキルと、基礎能力の違いだろうな。
「ありがとうよ。で、そっちの剣を持っている子、ミラだったかい? あんたは、アタシらの手伝いよりセイナの守りに専念してくれればいい。もちろん、従魔のあんたもね」
「わかった。それで?」
敵はなんなんだ?
「ああ、そうだったね。敵は、ここから歩きで三日ほど行ったところにある廃砦にいるはずだ」
「そんなところに? 誰なんだ?」
廃砦……誰もいなくなった場所にいるのなら、まともな人間じゃない。
この前相手にしたような山賊か、そういう場所を根城にするゴブリンみたいなのか。
「悪魔だよ」
「なに?」
「敵は、悪魔だ」
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