13 冒険者パーティ



 山賊退治は終了した。


 死体は山に放置し、生き残りは縄で縛って最後尾の荷馬車に繋げられた。


 歩くのを止めたら引きずられるという仕様だが、それをエグイなと感じるのは俺とセイナぐらいのものだ。


 それはともかくとして、セイナはちょっとした人気者になった。


 戦闘中はなにもしなかった彼女だが、その後で怪我人を回復して回ったのだ。


 魔力が大量にあるので、疲れ知らずに治療していく。


 特に怪我をした馬の治療ができたことで商人たちに喜ばれた。


 行商人の旅は続く。




 夜、セイナはこっそりと起きて、捕まった山賊たちの怪我を治している。


 引きずられた時や、縄でこすれた部分が裂けて出血しているのを治していく。


 変なことが起きないように、俺は見張りだ。




「すまねぇ、すまねぇ」




 最初の夜は逃げ出す機会をうかがって暗い目で見ていた山賊たちだが、三日目ともなると皆が涙を流して感謝をするようになった。


 なんというか、飴と鞭?




「あのまま、逃がしてあげられないかな?」




 そして、セイナも情が移ってしまっている。




「それはやめといた方がいいだろ」


「なんで? あんなに反省しているよ?」


「反省したって、行くところがなかったらまた山賊になるかもしれないぞ」


「……ならないかもしれないよ」


「あいつらがまた山賊になって誰かを殺したとき、セイナはどうするんだ?」


「うっ、それは……」


「俺たちはあいつらの面倒を見れるわけじゃないし、実際にあいつらが武器で襲ってきた事実も変わらない。この国の法律に任せるのがいいんだよ」


「うう……」


「ふふふ……」




 不意に笑い声が俺たちの会話に混ざった。




「やっていることと同じぐらいにお人好しだね」




 俺の【ガイド】が反応した魔法使いの女性だ。


 不寝番の順番だったのか、焚火の側で気だるげにしている。




「それに、従魔に諭されるなんて変なの」


「あははは……そうですよね」


「でも、嫌いじゃないよ。そういうお人好しなの」


「ありがとう、ございます?」


「ほら、そんな所に立ってないで、急いで戻らなくていいなら、ここで休んでいかないかい?」


「え? それは……」


「んじゃ、休んでいこう」




 女魔法使いの誘いに戸惑うセイナに代わり、俺が応えた。




「ほら、スープを奢ってあげよう。最近出回っている乾燥スープだけど」


「ありがとうございます」


「そっちの従魔もなにか飲むかい?」


「いや、遠慮しとく」




 この体になってあんまり腹が減らないんだよな。


 たぶんだけど大気中の魔力を吸収しているんだと思う。


 それでも食べる時には食べるけど。


 女魔法使いはジェインと名乗った。


 この間まで、仲間たちとうちのダンジョンで修行をしていたらしい。


 見た感じ、二十代後半ぐらいだろうか。


 灰色の髪が印象的な女性だ。


 説明が遅くなったが、俺たちが先日までいた街の名前がルータンといい、ダンジョンも世間ではルータン・ダンジョンと呼ばれている。




「ホッパーコカトリスは見たことあるけど、見つけたら逃げ出す魔物だよ。よく、従魔にできたね」


「あはは……運がよかったんです」




 探られるような言葉に、セイナが居心地悪くしている。


 だが、できればセイナには、ジェインと仲良くなって欲しい。


 彼女の持っているチートスキルの内容を知ることができるかもしれない。


 俺の【ガイド】は、彼女からチートスキルを奪うことが可能かどうかを示してくれない。


 たぶん、戦闘では無理だ。


 ホッパーコカトリスを恐れているようなことを言っているけれど、一対一なら勝てるだけの実力があるのだろう。


 それに、セイナが人と殺し合いになる可能性のある戦闘ができるとは思えない。




「あんた、まだ冒険者になりたてだね?」


「わかります?」


「そりゃあね。スレてないもの。なんかズレてるし、もしかして良いところのお嬢さんだったりする?」


「そんなことはないです」


「そうなのかい?」


「はい」


「ふうん」


「……あの、なにか、私に用があるんですか?」


「なんでそう思うんだい?」


「なにか言いたそうにしているように思えましたから。あの、私にできることなら」


「ははは……さすが山賊なんかに情けをかけてやるだけあるよ。


「ええと……」


「うん、まぁ、そうなんだよ。ちょっと頼みがあってね。だけど、あんたに声をかけるのが正しいのかどうか、話しながら考えていたところだよ」


「私にできることなんですか?」


「欲しいのはね。回復役なんだ。うちには回復役がいなくてね。ルータンで手伝ってくれていた奴は、移動はしないって別れてしまったから」


「パーティの誘いですか? あの、ミラちゃんも一緒でいいなら、彼女とも相談して……」


「手伝って欲しいのは一回だけだ」




 ジェインが言い切った。


 セイナの言葉を止めるほどに強い声だった。




「危ないからね。あんたを守るために、仲間はいた方がいい。だけど、戦うのはアタシたちだけだ」




 そう言った時のジェインの目は怖く光っていた。




「回復役でいいんですね?」


「ああ、それでいいんだ」


「私でよければ、やります」




 俺がなにか言う暇もなく、セイナは話を受けてしまった。


 だけど、いまだに【ガイド】は反応しない。


 付いて行くしかなさそうだ。






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