12 成果の確認と旅立ち



 救援の兵士が来るまでの間、村に滞在した。


 ゴブリンの死体を集めて、討伐部位を取って残りは穴を掘って埋めたり、死んだ村人の埋葬をしたり、壊れた家の修繕をしたりする。


 ゴブリンの討伐部位をもらう以外は、村の人に任せて、俺たちは村の周辺を警戒に勤めた。


 ゴブリンは去ったが、死臭に引かれて狼なんかの獣がやってきたりしていたから、それらを追い払ったり狩ったりした。


 まさかの熊までやって来たが、俺の【衝撃邪眼】で頭を潰して、村で熊肉BBQパーティをしたりした。




 そんなことをしつつ、セイナと成長を確認する。




 俺は【衝撃邪眼】が+2になった。


 セイナは治療を頑張ったから、【回復魔法補正】が+1になり、【成長補正】に+1がついた。


 その+分をなにに使うかはまた後で考えることにする。




 セイナは村での治療行為でかなり感謝されていた。


 村長宅に入ったときにはかなりの数の怪我人がいたらしいのだけど、全員を治療することができたらしい。


 かなりの重傷者もいたそうだけど、問題なしだったようだ。


 魔法の効果は使用者の魔力によって変化するらしいので、それはそうかと納得する。


 セイナの体に使われたリソースは上位竜種と同じぐらいだそうだから、つまりステータスもそれぐらいあるということになる。


 セイナがその気になったら、たぶん本職の戦士もドン引きの戦いとかできるんだろうけれど、あいつがそんなことをするとは思えない。




「え? 別の場所に移動するんですか⁉」




 状況が落ち着いてきた二日目、これからどうするかみたいな話をミラがしてきた。


 あのとき、ミラと合流しなかったらそのまま移動する気だったのだ。




「うん、目的があるから、いろんなところを回ってみないといけなくて」


「そうなんですか」




 ミラが寂しそうな顔をする。




「ミラちゃんはなにか目的があるの?」


「あ、いえ……修行のために冒険者をしているんで、場所にこだわりはないんですが……」


「じゃあ、一緒する?」


「え?」


「いざとなったら別行動すればいいんだし」


「いいんですか?」


「いいよね? タク君」


「俺は別にいいけど……」




 チートスキルを見つけた時はどうする気なんだろ?


 まぁ、すぐに見つかるとも限らないからいいか?


 ……いいか。




「よろしくお願いします!」




 嬉しそうにするミラを見ると、断るのも悪い気がしてくる。


 そうこうしている内に兵士たちがやってきた。


 兵士を引き連れた隊長との話し合いは、村長を交えてスムーズに終わった。


 俺がいる時点でわりと納得の戦果と受け取られたらしい。


 そんなに恐れられているのか? ホッパーコカトリス。


 報奨金がもらえるということでさらに数日をあの街で過ごしてから、俺たちは旅に出た。




 旅に出るにもお金を得る機会を逃さないのが、冒険者的な考えらしい。


 決まった目的地があるわけでもないので、ミラが見つけて来た大きな街に移動する行商人の護衛依頼を受けた。


 十台も並ぶ荷馬車の一つに俺たちは付いていた。




「すごいねぇ」




 俺を抱えたセイナが荷台の端に座って行列を眺めている。


 隣にはミラがいる。




「こんなにたくさんいるのに、襲われたりするものなの?」


「襲われないようにするためにたくさん集まっているんですよ」


「? 襲われないならこんなに護衛はいらないんじゃ?」


「大人なしめな服だと痴漢に遭うけど、攻めてる格好だと痴漢されないみたいなもんだよ」


「なるほ……ど?」




 言ってみたけど、満員電車になんか縁のない田舎者の俺たちには実感のない例えだったか?


 ともあれ、セイナの安全対策意識が心配になる。




「なにもないことが一番ですよ」


「うん、それはそう」




 そんな感じで二人が楽しく話をしながら旅は続いていく。


 俺は……従魔なんて珍しい存在なので、驚かれたりじっと観察されたりしている。


 このまま無事に進めばいいんだけど……。


 どうかな?




「山賊だぁ!」




 うん、終わらなかった。


 谷間の道を進んでいるときにその声が響いた。


 荷馬車が次々と止まる。


 どうやら、道を倒木で塞がれ、左右の山から山賊がぞろぞろと現れているらしい。


 俺たちのところにも姿を見せた。


 ボロボロの剣や斧を持った汚い男たちだ。




「うひょうっ! 女だ!」


「お楽しみだぜぇ!」




 セイナとミラを見て山賊がそう言った。


 その瞬間に、俺の目からは【衝撃邪眼】が迸り、山賊たちが吹っ飛んでいく。




「タク君!」


「山賊死すべし」


「もうっ! タク君ってば!」


「あっ、それでいいんだ」


「ミラは反対側担当」


「は、はいっ!」




 変に興奮しているセイナとミラの会話を引き裂いて、俺はさらに前に出て【衝撃邪眼】をぶち撒いていく。


 俺の暴走のようにして始まってしまった戦闘だが、奴らにとっては予想外の爆発音は士気を挫き、逆に護衛の冒険者たちに勢いを与えた……ようだ。


 セイナの山賊凌辱シーンを回避した俺だが、別に頭に血が上ったままなわけでもない。


 事前の打ち合わせで、こういう場合の動く範囲は決められている。


 単純に言えば、担当の荷馬車を守ることだけを考えればいい。


 前後の荷馬車がやられた場合は逃げて、別のところと合流してもいい……ということになっている。


 俺のところは問題なし、むしろ山賊たちが逃げ出した。


 背後のミラも活躍している。


 他のところは……と、周りを見たところで俺の【ガイド】が反応した。




「ぎゃああああ!」


「ひぃぃぃぃぃぃ!」




 山賊の悲鳴が上がる。


 視線で声を追いかけると、複数の山賊が宙に浮いている。


 山賊は、うっすらと灰色の混ざった半透明ななにかに掴まれているようだ。


 変化はそこで止まらない。


 捕まった山賊が、徐々に萎んでいっているように見える。


 いや、本当に萎んでいる。


 精気か生気か知らないが、瞬く間に搾り取られてスカスカになった山賊が地面に落ち、灰色のなにかは次なる被害者を捕まえて同じことを繰り返す。


 それを行っているのは、他の連中に守られている魔法使いの女性のようだった。




 あいつだ。




【ガイド】が教えている。




 あいつは、チートスキルを持っている。








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