09 魔法屋



 というわけでこの日は魔法屋にいった。




「ひっひっひっ、いらっしゃい」




 店員は、鍋を回していそうな老婆だった。




「こんにちは! 魔法を見せてください!」




 だが、セイナは怯まなかった。




「はいはい、元気な子じゃな。なにがいるんじゃ?」


「回復できる魔法がいいです」


「ふむ、それなら外傷を治療する【回復】。病気を癒す【治療】。毒を消す【解毒】。これら三つじゃな」


「それだけなんですか?」


「なんじゃ?」


「いえ、怪我とか病気の状態とかで魔法を変えたりはしなくてもいいんですか?」


「専門家になりたいなら魔法ギルドに行くことじゃな。ここで売れるのはこの三つだけ。お前さんの心配するように、【治療】と【解毒】に関しては治らんものもあるが……」


「……が?」


「込めた魔力次第では案外治ったりもする」


「魔力……ですか?」


「そうじゃ。魔力次第じゃ。人間の体も極限まで辿れば魔力となる。大体の不調は魔力の総入れ替えでどうにかなることは、立証されておる」


「へぇ、そうなんですか⁉」


「ひひゃひゃひゃひゃ! まぁ、そんなことができるのは一部の大魔法使いだけじゃがな。それで、どうする? 買うのかい?」


「買います!」


「そうかいそうかい。なら……」




 と、婆さんは満足そうに値段を言う。


【ガイド】が示した値段通りだったので、ちゃんと支払うことができた。




 魔法を覚えさせるのは、魔法屋にある魔法陣を使って行われる。


 魔法陣の上にセイナが乗り、魔法陣を介した儀式を行うことで魔法を覚えることができる。


 その魔法陣も、パネルを組み替えるだけで覚えさせる魔法を変えられるのだから便利だ。




「頭痛とかはないかい?」


「はい。大丈夫です」


「そうかい? たいしたもんだ。とはいえ、数日はなにか違和感があるかもしれないから気を付けるんだよ」


「はい!」


「……あんた、冒険者なのかい?」


「はい、そうです。とはいっても、なり立てですけど」


「魔物を従えてるのかい? 珍しいが、気を付けるんだよ。冒険者は善人じゃあやっていけないからね」


「はい。ありがとうございます!」


「……わかってるのかねぇ」




 婆さんは呆れた様子だ。


 セイナはお人好しだからなぁ。


 俺がしっかりしないと。




「それで、これからどうするの?」


「ああ、それなんだけど……別の街に移動するぞ」


「え? どうして?」


「俺たちの力試しもしないといけないけど、チートスキルの情報も集めないといけないしな」


「そうなんだ」




 それらの理由もあるけど、一番はここで冒険者活動をしていたら、うちのダンジョンを攻略することになりそうだからだ。


 まぁ、ダンジョンの一番の目的はダンジョンに現地生物を通わせることだから、俺たちがいても問題ないんだけど……。


 なんか、自分ところの施設を利用するのって落ち着かないよな。


 ダンジョンマスター目線で親父たちにも見られることになるし。


 それってなんか、授業参観的な気恥ずかしさみたいなのがあるからな。


 うん、やっぱだめだ。




「まぁでも、どっかで魔法は試してみたいよな」


「そうだねぇ。私も、せっかくだから使ってみたいけど……」




 あえてけが人を探すみたいなことをしたいわけでもない。


 さて……【ガイド】はなにか示してくれるか……。




「セ・イ・ナさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


「ミラちゃん?」




 不意打ち気味に抱き着いてきたミラを、セイナはしっかりと受け止める。




「どうしたの?」


「ボクと……パーティを組んでください!」


「パーティ?」




 涙顔のミラを見て、俺とセイナは顔を見合わせた。








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