第2話 ボロクソに言われていた自作小説


 平凡な会社員だった私が、趣味として小説投稿サイトに投稿していた異世界恋愛小説。

 それが『クリスティナ・ソーウェルは義弟に殺されるたびにループする』。

 処女作のわりにはそこそこお気に入り登録はされていた。書籍化のお声はかかっていなかったけど。


 内容は、そのタイトルのまま。

 主人公クリスティナが義弟に殺されるたびにループしてやり直すというもの。

 いわゆる悪役令嬢的ポジションのループものという感じで書いていた。


 クリスティナの最初の人生は、十八歳で幕を閉じる。

 父公爵がある日突然貧民街から連れてきて養子にした、一つ下の義弟アレン。

 慈善事業の一環だと父は言っていたが、何か隠している様子に父の隠し子だと思い込み、アレンをネチネチと虐げた。

 それだけならまだしも、アレンが一目惚れした子爵令嬢シンシアのこともネチネチと虐めたことで、最終的にアレンに魔法で殺される。

 なぜシンシアを虐めたかと言えば、クリスティナの婚約者である第二王子がシンシアに惹かれ、クリスティナに冷たく当たったから。

 この時点で「登場人物全員やばい」と感想欄で言われていた。


 そして二回目の人生。

 アレンを引き取る直前――十六歳に巻き戻ったクリスティナは、今度は弟をいじめたりせず優しくすると決意する。

 ここまではよくあるパターン。

 アレンが父ではなく国王の庶子であることを偶然知ったクリスティナが、弟をかわいがるまではよかった。

 でも、かわいがりすぎてアレンに執着するようになり、この人生でも彼が惹かれたシンシアを嫉妬により虐め、最終的にアレンに殺される。享年十八歳。


 ……といったストーリー展開により、私の小説は読者に袋叩きにされた。

 感想欄には「この主人公バカじゃないでしょうか。ループの意味ないですよね」「展開ヘッタクソ」と書かれ、ブックマークが一割減った。

 エゴサすると

「クリスティナ・ソーウェルは義弟に殺されるたびにループするけどアホでしたでいんじゃね」

「むしろクソルプでいい」

 と書かれていて、私の小説は陰で「クソルプ」と呼ばれるようになっていた。


 それでもぶっ飛んだ展開ゆえにどう着地するか気になる層もいたのだろう。

 文句を言われながらもそこそこ読まれていた。


 三回目の人生、十四歳からスタート。

 今度は弟とはつかず離れず、ほどよい距離を保った。

 この人生で弟の過去の詳細を知り気の毒に思ったクリスティナは、ほどほどに優しくしつつそこそこいい関係を築いてきた。

 毎度シンシアに惹かれてはクリスティナに冷たくあたる第二王子との婚約も回避し、今度こそ長生きできると思っていたその矢先、シンシアに振られて魔力暴走を起こしたアレンの魔法に巻き込まれ死亡。享年十八歳。ちなみにシンシアも死亡。

 感想欄はもちろん荒れた。


 そして――更新はそこで止まっている。

 十二歳からスタートする四回目の人生について書き始めたばかりだったから。



 もう一度鏡台の前に行き、鏡を見る。

 やっぱり映っているのは、神谷かみや 天音あまねではなくクリスティナ。

 年齢は十二歳になったばかりだという。

 つまり私は、自作小説クソルプの、おそらく四回目の人生のクリスティナに憑依してしまったのだ――。


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