私を殺すはずの義弟が私のストーカーになった
星名こころ
第1話 自作小説の主人公に憑依した!?
床に横たわった私の体が、どんどん冷たくなっていく。
重い瞼を無理やり開けると、そこは血の海だった。
倒れている騎士たち。もっともむごたらしい姿で横たわる王弟――私の婚約者。そして弟が首をつかんでいる、金髪の女性。足は床についておらず、手はだらんと力なく垂れている。
反逆者だ、と誰かが叫び、バタバタと大勢の足音が近づいてくる。
弟が女性の首をつかんでいた手を離すと、女性は人形のようにその場に崩れ落ちた。
「なぜだ……なぜ……愛していたのに……」
絞り出すような弟の声。
部屋に駆け込んできた騎士たちに一斉に剣を向けられても、弟は立ち尽くしたまま。
彼に「 」と言いたかったけれど声にならず、私の意識はそこで途切れた。
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ふっと、意識が浮上する。
体が、痛……くない。
あれ……? なんで痛いんだっけ?
……今のは、夢?
「お目覚めですか、お嬢様」
そんな声が聞こえて、ぼんやりと目を開ける。
……見慣れない天井。ここ、どこ?
驚いて上半身を起こす。
え、私、なんでこんな高級ホテルみたいな部屋にいるの?
「お嬢様、どうかなさいましたか? ……クリスティナお嬢様?」
そう呼びかけたのは、二十歳になるかならないかくらいの若い女性。
キョロキョロするけれど、この部屋には私と彼女しかいない。
なんで彼女は私をクリスティナと呼ぶの?
私の名前は
……クリスティナお嬢様?
いやいや、まさか。そんなことありえない。
ありえないけど……!
ベッドから飛び出して、鏡台へと走る。
その鏡に映る自分を見て、卒倒しそうになった。
ストロベリーブロンドの髪に、深い青の瞳。
少しきつめな顔立ちの、十代前半のとても美しい少女。
容姿も年齢も明らかに自分ではない人物が鏡に映っていた。
この髪と瞳の色。おまけに名前はクリスティナ。
まさか……。
「お嬢様?」
戸惑った様子で呼びかける彼女に、視線を移す。
亜麻色の髪に琥珀色の瞳の、メイド服のようなものを身にまとった優しそうな女性。
「……ジェナ?」
「はい、お嬢様」
あああああああ、やっぱり……!
「えーと、私って今何歳だったかしら」
「? 昨日、十二歳になられました」
「そう……」
とりあえず怪しまれないために彼女に洗顔や着替えを手伝ってもらい、それが終わってから一人になりたいからと部屋を出て行ってもらった。
念のため、もう一度鏡を見る。
やっぱり、鏡に映っているのは天音じゃない。
体が震えだす。
クリスティナという名に、この容姿。ジェナという名の専属メイド。
私……自分が書いた小説の主人公に憑依してしまったの!?
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