第30話 僕らの色(30日目・色相)
「色相環の補色関係だよな、お前ら」
「うん?」
午後の無人の美術室で、課題とにらめっこしていた最中。
邪魔しに来た、と悪びれもせず言いながら入って来たのは、
「どうしたの、急に。みんなで」
僕が美術室にいると聞いて、遊びに来たと芝が言う。
「そうだったんだ。色相環が何とか、っていうのは?」
十朱に聞くと、十朱は楽しそうに笑って黒板の横に貼ってある色相環の図を指で示す。何色もの色たちが、環になって並んでいる。十朱は、黄色を指差した後、直ぐ下、対角の青紫色へ指を滑らせた。
「この黄色と、青紫色が補色関係の色」
補色。ああ、なるほど。
「お互いを引き立たせる色、だっけ」
「そうそう。
そんなことを堂々と言われると、なんて返せば良いのか分からない。
「何でそんな話になったの?」
「美術室からの連想ゲームで、色相環の話題になった時、補色の話も出て。補色って何だったっけ〜から」
丁寧な芝の説明で、呑み込むことは出来た。でも、飛躍し過ぎな気もする。
「それを言うなら、十朱と芝もそうなんじゃないの?」
僕は赤色を指で示し、そのまま対角の緑色へ指を動かす。
「何か、色味もそれっぽいし」
「俺、朱色だしな、名前」
「色相環、補色、かーー」
十朱の笑い声を聞きながら、色の環をぐるりとなぞる。僕は別に、オーラとかそういうものが視える訳ではない。でも十朱は、名前からのイメージとはまた別で、頭の中に赤色のイメージが浮かぶ。芝も同じ理由で、緑色。まあ、名前から無意識に連想しているだけかもしれない。十朱の言う通り。満寛は水色だ。言ったことは無いけれど。僕自身が何色なのかは、自分では分からない。補色。補い、引き立たせる色、というなら、黄色に近いのかもしれないが。でも、
「何色でも良いよ。どんな色でも、僕たちは僕たちだし」
振り向くと、三人とも目を丸くして僕を見ている。あれ、変なこと言ったかな。少しして、満寛が小さく笑った。
「やられたな、十朱」
「笑うなよ、弓守ー」
十朱はブスッとした顔で満寛を見る。
「日田技らしいよ」
芝も穏やかに笑って頷く。また、僕だけ分かってない。釈然としなかったが、楽しそうにしている三人の周りに虹が見えたから、僕も結局笑った。
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