第2話 水色のワンピースの女(2日目・喫茶店)


満寛と、駅前の喫茶店で待ち合わせをしている。

これから大きな本屋へ行くのだ。早く着いた僕は、入口側の席でメロンソーダを飲みながら、のんびり過ごす。ふと顔を上げると、視界に水色が目に入った。奥の席から、ゆらゆらと、水色のワンピース姿の若い女性がこちらに歩いて来る。途中、全てのボックス席の客一人一人の顔を覗き込んで見ていた。そんなことをされているのに、誰も何の反応もしない。視えていないのだ。こちらへ向かって来る。どうしよう。何も思いつかないまま、女性は僕の隣の席まで来た。隣には、白いティーシャツに派手な金色のピアスの、少し怖そうな男性が一人でいる。女性は、お兄さんの顔を覗き込むと、顔を歪ませて嬉しそうに笑った。

「見つけたァ」

嫌な声だった。ゾッとした。男性は気付かず、伝票を持って立ち上がる。女性は、楽しそうにその腕へ自分の腕を絡ませ、ついて行ってしまった。窓から、店を出て、外の大通りを歩く二人が見える。女性が、男性に何か話し掛けるような仕草をしていた。直後、男性は車道に飛び出し、走って来たトラックに跳ね飛ばされる。一瞬だった。衝撃音、悲鳴、救急車!という怒号が、遅れて聞こえて来た。店内もざわつく。

「事故だ」

「そこの大通りで」

いろんな会話が飛び交う中、僕は固まっていた。人だかりから外れた場所で、あの女性が、恐らく男性が倒れているだろう方向を指差しながら身体を揺らして笑っている。視界に、水色が揺らめく。そこまでが限界で、僕は目を強く閉じた。

「宗也!」

聞き慣れた友人の声が突然聞こえて、僕は目を開ける。いつ来たのか、満寛が僕の隣に立っていた。

「大丈夫か?悪い。遅れて。そこの大通りで事故があって、人だかり抜けるの大変だった」

満寛が僕の向かいに座る。僕は恐る恐る、外を見た。さっきより人が増えた大通りに、もう水色のワンピースはいない。

「まだ騒ぎ収まんないし、何か食ってから行こうぜ」

強引にメニューを渡される。僕は満寛を見た。

「席変わるか?」

いつもの不機嫌そうな満寛の目が、少し和んだ様子で僕を見ている。それを見て初めて、少し気分が落ち着いた。もう大丈夫。

「大丈夫。ありがとう。プリン美味しそうだなって思ってたんだ」

「俺は、オリジナルメニューのデラックスバーガーが気になる」

とんだ災難だった。僕は少し長く息を吐き出して、やっと笑えたのである。










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