文披31題 僕と

宵待昴

第1話 図書室のベランダ(1日目・夕涼み)


僕は夕方の図書室に向かった。図書委員をしてる満寛みちひろの仕事も終わる頃。ベランダに、黄昏れている友人を見つける。ベランダへのガラス戸を開けたら、微かな風が頬を撫でた。

宗也そうや

振り向いた満寛の隣に、僕も並ぶ。三階のこの場所からは、校庭で部活中の生徒たちがよく見えた。

「お疲れ様。夕涼み?」

「あんま涼しくないけどな」

「そうだね」

確かに、風はさほど涼しくなかった。満寛の不機嫌そうな声に、僕は笑って返す。ふと。上から、僕の前を黒い影が落下して行った。音も無いそれを、僕は目で追う。下を見た。校舎と校庭の間のコンクリートの通路に、真っ黒な人影が倒れている。それは立ち上がると、煙のように消えた。あっと思っていると、また上から黒いものが落ちて行く。倒れる。立ち上がる。消える。落ちる。これを、繰り返し始めた。何度、僕は鼻先を落下して行くそれを見続けていたか。夕陽を受け、真っ黒なそれは、

「ーー宗也?」

満寛に肩を掴まれて初めて、少し手すりから身を乗り出していたことに気付く。

「危ないだろ。どうした」

「ええと、」

満寛に引き戻されながら、僕は下を見た。横たわる黒い人影が、コンクリートに吸い込まれるように消えて行く。それからは、何も落ちて来ない。

「涼しくなってきたかも。もう帰らない?」

満寛は僕をじっと見た後、溜息をつく。

「分かった。帰るか」

満寛が納得してないのは分かるけど、僕はホッとした。話してしまった後、満寛が気に掛けてしまって、あの人影を見るようになっても嫌だなと思ったから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る