Day.16 窓越しの

 祖父の書斎には様々な本が積まれている。そこから面白そうな本を探すのが私の趣味だ。

 今日も今日とてひっそり部屋に忍びこむ。バレたら大目玉なのは確実だが、怒られるほどやりたくなるのが性だから仕方がない。

 本は好きだ。恋愛、友情、陰謀に策略など、様々な物語が紙という薄い窓の向こうでくり広げられているようで心が躍る。わくわくしながら、扉の小窓から差しこむわずかな光を頼りに、興味を惹かれた一冊を棚から引き抜いた。

 書かれていたのは男女の悲恋だ。貴族の男と使用人の女が結婚を決めるも反対され、来世での再会を希望に揃って命を絶つ。ありふれた物語だが、定番だからこそ面白く、独自のアレンジが加えられていればそこがより際立って読みごたえがある。

 読み進めながらふと違和感が湧いた。男の名前に見覚えがあった、というかありすぎた。

 祖父と同じなのだ。名前だけでなく、名字も。

 おや、と思いつつ作者を確認すれば、どこにも記載がない。本の装丁もいくらか作りが荒いが、昔に作られたものだからではなく、もしかして個人がそれっぽく仕上げたからだろうか。

 胸騒ぎを覚えつつもう一度読み返して、恋人たちが命を落とすシーンで手を止める。彼らは互いの胸に刃を突き立て、抱きしめ合って果てる。

 そういえば祖父の胸にも、大昔についたという傷が無かったか。

 だとすれば、ここに記された物語は――発見に興奮と後ろめたさを感じながら本をもとの場所に戻し、部屋から出ようとして私は悲鳴を上げた。

 扉の小窓の向こうから、祖父が血走った眼で私を睨みつけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る