Day.13 定規
そこの君、ちょっといいかな。もし急ぎでないなら僕と少し話をしてほしい。そんなに長々と時間はとらないから。
単刀直入に言えば、君の顔が気になったんだ。たまたますれ違っただけなのに目が離せなくなる、そんな感じがして。ストーカーだと誤解されるのを重々承知の上で、どうしても君と話したくて追いかけてしまった。
とりあえず僕に向かって真っすぐ、背筋を伸ばして立ってほしい。うん、そのまま動かないで。
それじゃあ失礼して……。
ん、これ? 定規だよ。百均で売ってるような安物じゃない。軽く一万円は超える最高品質の逸品でね、肌身離さず持ち歩いてる。僕にとってのお守りみたいなものだ。
笑わないで。唇は引き結んだままで頼むよ。
顎から下唇の中心までの長さ……と、そこから左右の長さ、傾き。唇全体の厚さだけは問題ない。唇の右端から頬にかけてと、頬の中心から涙袋までの長さ。反対は……やっぱり右と比べて短いしバランスが悪い。鼻が左に寄っているのかな。
なにしてるって、君の顔のパーツを測ってるだけだよ。福笑いほどとはいかないけど、あまりに全体的に整っていないからびっくりして。僕は世の中のそういう人たちに時々声をかけて、こうして測らせてもらっている。
黄金比率ってあるだろう。全人類の顔はあれに沿うべきであると僕は考えていてね。ちなみに自分で言うのもなんだけど僕は凄腕の美容外科医だ。
というわけで君、僕の患者にならないかい? どこを測ってもなんの狂いもない、この世で一番美しい顔に仕上げると約束するよ。
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