Day.5 琥珀糖

「お前に彼女出来たってマジ?」

 一限目の授業が終わるなり、前の席の友人がそう訊ねてきた。僕が素直にうなずくと、どんな反応を期待していたのか、彼は長々とため息をつく。

「こう、恥ずかしがって赤くなるとかねぇのか。いやまあ、お前のそんな顔見たくはねぇけど」

 どっちなんだと笑うついでに、噂の出所を聞いてみる。発信源は僕の部活の後輩だった。

 学校のような狭い空間では、他人の色恋沙汰の話題など掃いて捨てるほどある。放置しておけば忘れられるだろう。友人もそれが分かっているからか、今のうちとばかりに質問をぶつけてきた。

「どんな感じの子なんだ。後輩なんだろ、同じ部活の女子部の。男子も投げ飛ばせる猛者だって聞いたぞ。もしかしてお前より強かったりして」

 それは無い。初対面でいきなり勝負を挑まれた時には、僕があっさり勝った。以来特に交流は無かったが、帰りの電車で待つ間に顔を合わせる機会があり、それから会話が増えたように思う。

 第一印象は〝変な奴〟だった。趣味が合って会話が弾むわけでもないのに話しかけてきたり、僕が読書に没頭している時は黙って隣に座るだけだったり。部活では厳しい顔で練習に打ちこみ、近寄りがたいオーラを放つ時もある。けれど笑顔は春の日差しのように柔らかく、軽やかに弾む声音も心地いい。

 一見するとクールで硬そうなのに、内側に穏やかな甘さを秘めている。それを友人に教える義理はない。僕は唇の前に人差し指を立てて、興味津々な追及に「内緒」とだけ答えた。

 彼女の琥珀糖に似た素顔を知っているのは、この先も僕だけでいい。

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