Day.3 飛ぶ

 ねえ、今日も一日どこ行ってたの。先月知り合った居酒屋のアルバイトのとこ? それとも通勤電車で毎朝会う眼鏡女? 会社で隣のデスクにいる後輩ちゃんの家かな。

 それくらい分かるよ。何年一緒に居ると思ってるの。あなたがなにを考えてて、どんな行動するかなんてお見通し。

 いつだったっけ、あなた言ってたよね。「俺は渡り鳥みたいなもんだから」って。帰る家を変えてるだけなんだって。私も間抜けだったからさ、なんかロマンチックに感じたこともあったよ。ただの言い訳なのに、馬鹿みたい。

 調べてみたんだけど、鳥ってほとんど一夫一妻制らしいよ。あなたよりよっぽど誠実じゃん。それでもまだ渡り鳥を気取るつもり?

 分かった。じゃあ証明してみせて。

 そんなに「俺は鳥だ」って言い張るなら、今すぐそこのベランダから飛んでよ。

 どうしたの。あなたは人間じゃなくて鳥なんでしょ。だったら宙を浮くくらい簡単だよね。腕を羽の代わりにするのかな、それとも背中から翼を出すの? あはは、わくわくする。

 飛び出すのが怖い? だったら背中を押す手伝いくらいしてあげる。ほら早く、早く!

 ……なぁんだ、やっぱり人間だったんじゃん。

 実はね、この前出かけた時に神社行ったから、神さまにお願いしてきたの。「主人は鳥になりたいみたいなので、願いを叶えてあげてください」って。残念、お願いは届かなかったみたい。

 まあ一瞬だけでも宙に浮いたんだし、鳥の気分は味わえたはずだよね。そのへんは私に感謝してほしいな。もう聞こえてないだろうけど。

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