第178話 第二王子の婚約者 ★カミル SIDE

 昨日の話し合いにより、第二王子のアランは、国の外れにある監獄島に送られる事になったが、その婚約者の処遇は未だに決まっていなかった。


 問題は、アラン王子の取り巻きが、この婚約者に手を貸して、リオに与えられるはずだったお金を騙し取っていた事だ。それについて、国王陛下と宰相に呼び出された僕は、どうしたものかと頭を抱えていた。


「カミルよ、第二王子の婚約者はどうすべきだと思う?私としては、リオに振り分けられた予算を奪った罪は重いと思うのだが」


「ええ。勿論、簡単に許す気はありませんが……彼女は異世界からの召喚者ですからね。こちらが無理矢理呼んでおいて、簡単に処刑する訳にもいかないでしょう?」


「そこなんだよなぁ。第一王子であるアルフォンスの婚約者であるマイは、先日も孤児院へ行ったり、教会の施しにも参加して、しっかりと婚約者としての務めを果たしていると聞いているのだが……」


「はい、その通りでございます。リオ様と月に数回、お茶会も開いて情報交換なども行っておられます。学園も真面目に通っていらっしゃいますし、彼女は全く問題ございません」


 僕にもアルフォンス兄上の方から、彼女はどう行動すべきかを相談して来ていたからね。彼女を手放したく無いから、お互いすべき事を頑張ろうと話し合って決めたらしい。仲良く過ごせている様で、僕も安心していたんだよね。


「まぁ、アレは、アランが願って召喚した者だからなぁ?」


「アラン元王子に考えの近い者が来たのでしょうな」


 召喚する側の人間が、どの様な人物を招きたいかを願う事で、それに近い者が召喚されるのだから仕方ない。アラン兄上がどんな人物を願ったのか、ちょっと気になるよね……この世界を破滅に向かわせる様な人物を、願っていない事を祈るしか無いか。


「アラン兄上の婚約者が、リオに渡される予定だったお金を横取りした……兄上の取り巻き達と共に犯罪を犯したと言う、ハッキリとした証拠があれば、修道院に入れるなり、方法はあるんですけどね……」


「そうだな。証拠が無ければどうしようも無いからな」

 

 証拠を集めるにしても、随分前の話だからね。ソラに言われるまで、僕達は誰もリオがお金を貰っていない事に気がつかなかったのだから。証拠を見つけるのは難しいだろうと分かっているが……必死に考える3人の間に沈黙が流れた時だった。


「オイラ達が調査するよ〜!」


「王様もカミルも、ボク達に任せといて〜!」


 ポンッ!ポンッ!と、突然目の前に現れたソラとシルビーが、やる気満々で頼ってくれとアピールして来る。リオの為に一肌脱ぐぞ!と張り切っているのは分かるのだが、今回の件はそんなに簡単な話では無いんだけどね?


「ソラ、シルビー。とてもありがたい申し出ではあるのだけれど、勝算はあるのかい?」


「もぉ、カミル〜。ソラ様が、リオを虐めたニンゲン達を放っておく訳がないでしょ〜?それが発覚した頃だから、随分前から調査してたんだよ〜」


 それは初耳だね。精霊達が気にしてくれていたんだと知って、とても驚いたよ。僕が忙しくて中々手がつけられなかった案件に、しっかり着手しているのが、抜かり無いソラらしいよね。実は僕も気になっていたから、とてもありがたかった。


「カミル、実は既に調べ終わってるんだ〜。後は証拠を集めるだけの所まで進めてあるから大丈夫だよ〜。因みに、証拠がある場所も既に見つけてあるよ〜」


「な、なんだって?ソラ殿、既に黒幕は分かっていると?誰なのか、今聞いても?」


 ええ?リオのお金を騙し取った、アラン兄上の婚約者の取り巻きを突き止めたって事になるよね?証拠も揃っていると。それが本当なら、ソラ達には頭が上がらないよ……色々と落ち着いたら、何かご褒美を準備しなければならないね。リオの家族とのんびり旅行とか?今度、父上と相談しようかな。


「王様〜、楽しみは後に取っておかなきゃだよ〜。どうしても聞きたい〜?ふふっ。シルビー、どうしよっか〜?」


「ふふふ。どうしようねぇ、ソラ様〜。あーでも、やっぱり全部揃えてからが良いと思うよ〜。下見に行った時、ちょっと大変だったし〜」


「あ〜、そうだね〜。そうだ、カミル〜。リオに隠密魔法をかけて貰ってから行っても良い〜?屋敷に入ってしまえは楽なんだけど、その屋敷に飼われてる大っきい犬がオイラ達を見つけると吠えるんだよね〜」


 シルビーの言う大変な事が、危険な事じゃ無くて良かったよ。そう言う事であれば、隠密魔法をかけて行った方が安全だよね。


「あぁ、それは面倒だね。リオには、僕から頼んでおくよ。それで、いつ証拠を集めに行く予定なんだい?」


「明日でも行けるよ〜。明日は、屋敷でパーティーがあるみたいだし、忍び込みやすくて丁度良いよね〜」


「そうなんだね。一応、念の為に影を数人連れてってくれるかい?何かあった時の証言として役に立つかも知れないからね。陛下、よろしいでしょうか?」


「あぁ、勿論だ。ソラ殿、いつも義娘むすめのリオの為に動いてくれてありがとう。それは我が国の膿を取り除く事にも繋がっているのだ。重ねて礼を言うよ」


 本当にありがたいよね。僕も、頭を下げてお礼を言いたいぐらいだ。でも、ソラはそれを良しとはしないだろうから、そんな事はしないでおくよ。


「リオのために行動しただけだから、お礼は要らないよ〜。ニンゲンの世界だから、証拠を集める必要があっただけだしね〜?それが国のためになったのであれば、王様はラッキーだったね〜」


「ぶはっ、私はラッキーだったのだな!そうだな、お礼を言うという事は、次回もよろしく頼むと言ってる様なものだからなぁ。では、私は、可愛いリオのかたきを打ってくれてありがとう、が正しいのだろうな」


 ソラは精霊の王子として、しっかりしているよね。人間に関わり過ぎ無い様、ちゃんと考えて行動が出来るんだ。それを受け入れ、ソラの考えをきちんと肯定する陛下も素晴らしいと思う。


「そうだね〜。これからも、リオの事だったらいくらでも頼まれてあげるよ〜」


「ははは、ソラ殿。了解した。あぁ、そうだった。影はおさを含め5名連れて行って貰えるだろうか?」


「オイラ達は、リオに隠密魔法をかけて貰うから見えないと思うんだけどね〜?勝手に着いて来てくれるかなぁ〜?」


「ソラ様、現地で相談しながらが良いかも〜?場所によっては、ニンゲンが5人も居たら、邪魔になるかも知れないし〜?」


「うん、そうだね〜。現地で相談して決めようね、影のジーさん」


「御意!」


「おぉぅ、居たのか……よろしく頼むぞ」


「はっ!かしこまりました。ソラ殿、よろしくお願いします」


 何とか話はまとまったね。明日の事は、ソラとシルビーに任せるしか無いんだけど、怪我などもせず、無事に戻って来て欲しいと思うのだった。

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