第163話 王弟のブラックジョーク? ★ソラ SIDE

 王様の執務室に呼ばれたのは、リオやジーさん達、今回ダンジョンに潜ったメンバー。後はソウチョーって呼ばれていた責任者であるエドワードと、今回の特殊部隊遠征メンバーの隊長である、アンバーと言う男だよー。


 リオはこっそりジーさんの後ろに隠れているつもりかなー?王様の斜め後ろに最初から控えていたカミルと目が合わない様に頑張ってるねー。無駄なのに何で隠れたいんだろうと首を捻りながら、オイラとシルビーは王様の膝の上でまったりしていた。


「アンバー、簡単にで良い。何があったか説明を」


「はっ!己が偉いと思い込んでいる貴族の騎士ベンジャミンが暴走し、ラドンに向かって平民の騎士を突き飛ばした為に隊列が崩れました!」


 あの偉そうに振る舞って、その後しょっ引かれた騎士のベンジャミンは酷いヤツだったんだねー。仲間を突き飛ばすなんて、友達が居なくなっちゃっても知らないんだからー。こういうニンゲンは王様に『おしおき』して貰わなきゃだねー。


「あぁ、やっぱりそうじゃったか。大体は予想通りだったのぉ。怪我をした者達が不憫ふびんでならんわい」


「『賢者様』と『大聖女様』がダンジョンに潜っておられ、死亡者ゼロ!怪我人も全て回復しております!誠にありがとうございました!」


 アンバーはリオとジーさんの方向を向くと、両手を体に沿わせてビシッと直立した後、ガバッと深くお辞儀をした。


「本当にね〜。今回リオ達が偶然ぐうぜんもぐって無かったら……恐らく、半数も助からなかったんじゃない〜?」


「ソラ殿、私の見解でもそうなったであろうと思います。そして、命が助かった半数の者達も、大半は今後不自由な体で生きて行く事になったでしょう」


 本来、治癒魔法を使えるニンゲンが治療出来る時間は、怪我をしてから数時間程度。時間が経ち過ぎると傷が塞がらなくなるんだよねー。城に帰って来るまでに最低5時間は掛かるから、生きて戻って来れたとしても、出血を止める程度の治療しかして貰えないからねー。まぁ、リオ達が居なければ、腕や足は生やせないんだけどねー?それにリオとジーさんは魔力量も多いから治せただけ……阿呆な騎士のせいとはいえ、本当に運が良かったねー。


「そうか、そうか。リオ、良くやってくれたな。私からも褒美を出そう」


「あ、いいえ。私は、その、特に何もしておりませんので……ね?爺やが大活躍~!的な?」


「「「「………………」」」」


 リオ……まだ誤魔化そうとしていたんだねー?いい加減諦めたと思ってたのに往生際おうじょうぎわってヤツが悪いねー。カミルだって結果的に沢山の人を助けた事が分かってるんだから、そこまで怒らないと思うんだけどなー?


「リオ、無理があるじゃろうて。そうじゃのぉ……32階の熊の首を落として回ってたから、ラドンの首も落としてしもうた、的な?」


「『賢者』の爺さん、そちらの方が無理がありそうだ」


 まだリオと出会って間もないエドワードは、リオの本質が理解出来ていないみたいだねー。リオの事だから、『つい』やってしまったという可能性は十分にあるんだよねー。


「いや、あながち……リオなら普通にあり得そうだな、とは思ったからな?クックッ」


 さすが王様は分かってるねー。ジーさんと王様は怒りもしないよね。カミルが心配して小言を言うぐらいってオイラは予想してるんだけどねー。


「うん、まぁ、リオだからね。リオ、隠れてないで僕の目を見ようね?」


「………………テヘッ?」


 カミルに声を掛けられたリオはビクッと肩を震わせてから恐る恐るカミルを上目遣いで見上げて首をコテンと倒しているね〜。カミルは『コレ』に弱いんだよね〜。


「グッ、か、可愛い……怒る気になれないじゃないか。まぁ……そうだね、今回は仕方ないね。リオが僕にバレるのを恐れて騎士達を放置してしまったら、大変な事になっていただろうからね。逆を言えば、僕に怒られると分かっていても52階まで助けに向かった勇気は素晴らしいと思うよ」


「………………」


 リオがカミルからスーッと視線を離して、窓の外を眺めた。うん、そうだろうねー。リオの事だから、彼らを助けるって事だけが決定事項だったんだよねー。大事おおごとにしたら内緒でダンジョンに潜ったのがバレるって事も、カミルに危ない事をしたと怒られる可能性も忘れてたんだと思うよー。


「あぁ、リオはただ単に誰かが階下で怪我をしたと聞いて、助けたくて向かっただけで、後の事は何も考えて無かったんだね……?」


 カミルが困った顔でボソッと呟いたけど、すぐに仕方ないなぁーって顔になったね〜。


「ブハッ!まぁ、それこそリオらしいとは思うがのぉ?ホッホッホ」


「クックッ、そうだな。悪い事をしたのであれば王太子の婚約者としての立場が――――などと注意しただろうが、軽傷者を含めて46名だったか?国の為に働く騎士達を癒したのだからな。2人の賢者が居合わせたお陰で死傷者はゼロだしな!感謝はしても、文句を言う事は無いから安心するがいいぞ、リオ。クックック」


 リオは本当に私を怒らない?って顔でカミルをうかがってるねー。カミルはあごに手を添えて何やら考えてからリオに視線を移したね。


「んー。今回、ラドンを討伐した時の動画は無いのかい?僕としては、その時の状況を客観的きゃっかんてきに見てみたいね。どれぐらい危険だったのかを知りたいなぁ」


「ふむ。危険度はゼロだったが、カミルが心配するのも分かるからな。良かろう、ワシが記録しておった水晶を見せてやろうかのぉ」

 

「師匠!ありがとうございます!」


 ジーさんがリオに視線を向けると、リオが奥の壁に大きなスクリーンを張った。無詠唱だから、魔力の揺らぎを読めない者にはジーさんがスクリーンを張った様に見えるだろうねー。そしてジーさんが首から下げているペンダント型の記録水晶から映像が映し出されたのだった。


 動画は、凄い勢いでエドワードとリオが並んで階段を駆け下りる場面から始まった。走りながらラドンを見つけたリオがエドワードに何かを言い、強化魔法を自分にかけた瞬間、あっという間にラドンの背を踏み台にして高々と飛び上がりクルリと一回転。この時点で周りにいたニンゲンが、やっとリオがラドンの上を飛んでいる事に気付く。その後、左側の腰から剣を1本だけ抜いたリオが、風の魔法を纏わせて一振りし、音もなく着地してラドンを振り向きもせず、ジーさんの元へ颯爽と歩いて行く……そんな場面が映っていた。


「…………私は現場におりましたので、ラドンを討伐した瞬間を目の当たりにしたのですが、何度見ても凄いとしか言えませんね……総長となって数十年経ちますが、私が見て来た騎士や魔導師の中でも抜きん出てお強いですし、もしかしたらこの世界で1番お強いのではないでしょうか……?」


「この世界で、ですか……」


 顔を引き攣らせたリオがショックを受けている。今更だよねー?相変わらず、自分は普通のニンゲンだと思っているのかなぁー?オイラの契約者である事を、早く自覚して貰わないとだねー。


「精霊の中でも、ここまで強いと勝てる子はいないんじゃ無いかなぁ~?元々精霊の場合、攻撃魔法は対価がいるから使わないしね〜。ハーフのライトも攻撃系の魔法は苦手だもんね~」


「それでもカミルは心配なんでしょ~?リオに勝てる者がいるとすれば、神様ぐらいなのにね~?」


「まぁそうだね〜?ラドンはどれぐらい強い魔物なの~?オイラ、あんなに大きな魔物は初めて見たよ~。翼があったし、もしかして飛べたのかなぁ~?」


「飛べますよ。討伐難易度としてはSSランク、最も難易度の高い魔物の部類です。基本的には特殊部隊の隊員40人以上で5時間以内に討伐する事を目標としている害獣で、月に2回湧くのですが、1番やりたくない討伐と言われていますね」


 毎回リオに任せたら、誰もケガ人すら出ずに討伐できると分かって良かったねー。リオが暇だったり、ダンジョンに潜る用事がある時に、ついでに討伐するのもアリなのでは?皆がやりたくないんでしょー?後始末だけしてくれるなら、人の為になる事だし、喜んで討伐しそうだけどね、リオならねー。

 

「この国の魔導師と騎士を何十年も見て来た王弟がそうじゃと言うのであれば、まぁそうなのじゃろう。じゃが、力の強さなどは王太子妃になるリオにはどうでも良い事じゃがのぉ」


「王弟?あぁ、だから赤……」


 リオはエドワードの魔力の色が赤である事は見えていたみたいだからね~。王族だから魔力の色が上位なのだと結びついたのだろうね。


「え?ん?」


「おぉ、そうでした。リオ様、私が魔法を使える事は表向きは内緒にしているのです。ですので……」


「そうなのですね、分かりました。エドは素晴らしい剣士だと認識して置けばよろしいかしら?」


「リオ様、私に敬語は不要です。どうぞ甚振いたぶって貰っても構いませんので」


 真面目な顔でおかしな事を言うエドワードにリオが顎に手を当て、首をコテンと倒して眉を下げて悩んでいる。返答に悩むよねー。これはエドワードが悪い。そして唐突過ぎて、誰もフォローしてくれないのはどうかと思うけどー?


「…………甚振いたぶる?…………えっと、取り敢えず、敬語はやめるわね?」


 困った顔で妥協案を出したリオは偉いと思うよ~。やっと動き出したのはジーさんで、思い切りエドワードのすねに蹴りを入れると彼は痛がって、ケンケンとその場で跳ねた。やっと言っている事を理解したカミルが、エドワードに向かって手をバタバタさせながら叫ぶ。


「なっ!ちょ、ちょっと、叔父上!リオに変な事を言わないでください!」


「おい!ち、ちょっと待て!そこでは無いだろう?!リオ、エドの魔力が見えるのかい?」


 王様にはちゃんとエドワードのセクハラを叱って欲しかったんだけどねー。それより、この王国で魔法制御が完璧で、魔法が使えないと思われているエドワードの魔力を感知した事に驚いているみたいだねー。


「え?あ、はい、見えます……」


「リオ、前に手を振っていた影の長がいるだろう?あれの魔力も見えていたりするのかい?」


「はい、魔法が使える人である事は分かります。お2人とも魔力制御がお上手ですので、魔力量や強さはふんわりとしか分かりませんが……」


 彼らの才能や能力を、お上手じょうずと言って完結させたニンゲンは、先にも後にもリオだけだろうねー。本当にリオは面白いねー。


「ぶふっ!お前たちは魔力制御がお上手だと!あはははは!」


「陛下、笑い過ぎです。リオ様、お褒めいただきありがとうございます。そこまで『視える』強者に褒められる事は、とても名誉な事と存じます」


 エドワードに話しかけられ、返答しようと思ったリオが困った顔をしているねー。恐らく、エドワードが王弟である事を思い出して敬語を使うべきか悩んでるみたいだねー?今更だと思うけど、リオってそういう所が律儀と言うか、真面目だよねー。


「ねぇ、エド!私、貴方が王弟だなんて知らなかったわ!既に愛称で呼び捨てにしてるし……挨拶した時に教えてくれても良かったじゃない……」


 眉を下げて口を尖らせ、少し拗ねた様に文句を言うリオに、エドワードは口を大きく開けて笑った。


「あははは。リオ様、私がリオ様に愛称呼びを許したのはラドンを討伐する前です。リオ様の強さも確かに素晴らしいのですが、私は貴女様がサラッと何気なく仰った考え方が好ましかったから愛称で呼んで欲しいと強く思ったのですよ」


「え?叔父上が会ったばかりのリオに愛称呼びを許したのですか?そんなにも叔父上の心を揺らす言葉を?リオは何と言ったのでしょう?」


 カミルが食いついたねー。カミルは叔父さんであるエドワードも幼い頃から尊敬していたらしいから気になったんだろうねー。

 

「あの時、偉ぶるでもなく、人は誰しも『適材適所』で助け合えば良い、自分は治癒魔法が使えるから治療したのだと仰いました。自分だけが特別なのではなく、ただ目の前にある自分に出来る事をやっただけだと言う考え方は、年齢や性別を超えてとても好ましく、どのような生い立ちであったとしても尊敬に値すると思っております」


「あぁ、リオらしいですね。叔父上、リオは目立つ事を嫌うので、この事は内緒にして貰っても良いですか?特殊部隊の者達にもそう伝えて貰えるとありがたいのですが」


「………………恐らく、既に漏れてしまっている可能性の方が高いですが。そうですね、これ以上広げない様に言っておきましょう。アンバー、戻って伝えて来てくれるか?」


「はっ!かしこまりました!」


 オイラの耳にも既に特殊部隊の者達が話している声が聞こえてきているから、人のくちに戸は立てられぬって言うし、もう無理だと思うけどねー?でもまぁ、またリオの味方が増えたみたいだしねー。カミルの溺愛するリオは、王国最強のメンバーが守ってくれると思うよー。ふふっ。

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